砂糖による病気の秘密 ~企業はどのようにその害を重要でないかのように科学を操作してきたか~【その2】

ニュース/レビュー

今回はカリフォルニア大サンフランシスコ校(UCSF)からのレポートの続きです(前編はこちら)。
(拙い和訳で恐縮ですが・・・)

 UCSF からのレポート(英文)
Sugar’s Sick Secrets: How Industry Forces Have Manipulated Science to Downplay the Harm
(December 26, 2018: UCSF News Center)


科学的ペテンを明らかにする文書

2007年には、Cristin Kearns〔DDS(歯学博士), MBA(経営学修士)〕(以下カーンズ歯科医と略称)が、私たちを崖っぷちに立たせた張本人たちに光を当てるという極めて希な旅を始めました。彼女の攻撃はUCSFの助教授になる何年も前から歯周病と糖尿病の関係についての歯科会議で、始まりました。講演者の一人が砂糖の入ったリプトンティーに太鼓判を与えたのです。カーンズ歯科医は仰天して彼を追いかけどうしたら甘くしたティーを健康的と言えるのかを尋ねました。「砂糖と慢性疾患を結び付ける証拠はない」と彼は静かに答えました。
「私は無言でした」カーンズ歯科医は思い出します。「文字通り言葉がなかった」
彼女は砂糖漬けのドリンクが患者の口腔の健康をいかに害したかを目の当たりにしてきました。すべての歯が虫歯になり、虫歯が子供を苦しめる主な慢性疾患であることを知っていました。
会議のもう一人の講演者、これは連邦政府の全国糖尿病教育プログラム(National Diabetes Education Program)からで、糖分摂取量についてはなんの記述もない食事指導パンフレットをシェアしました。「私は奇妙なことに気付きました」とカーンズ歯科医は言います。彼女は糖尿病の多い都心の診療所で働いていましたが、彼女にとって過剰な糖が病気の一因になっていることは明らかでした。

「何が起こっているのか?」カーンズ歯科医はその疑問を忘れることができなかったので、家に帰り砂糖について調べ始めました。止まない衝動にかき立てられ、彼女は経験と「専門家」から聞いた事実との間にあるギャップから背後にあるプレーヤーに焦点を合わせました。1943年までさかのぼる業界団体、Sugar Association(砂糖協会)のウェブサイトが浮かび上がり、そのメンバーには、Domino Sugar、Imperial Sugar、その他の砂糖生産者が含まれていました。
カーンズ歯科医は砂糖協会について深掘りしていくうちに、彼らが科学や連邦の政策に影響を及ぼしていることを確信しました。彼女は仕事を辞めて全国の記録保管所(archives = アーカイブ)を調べました。ある日彼女は情報の大鉱脈にヒットしました。それは1976年に業界が始めた広報キャンペーンに関連する1,500の内部砂糖協会文書でした。その文書は明確に砂糖の安全性の食品医薬品局(FDA)の規制当局による審査に影響を与える業界の計画を示していました。「私はそれが見つかったことを信じられなかった」と彼女は言います。

カーンズ歯科医は砂糖協会について調べれば調べるほど、それらが科学や連邦の政策に影響を与えていることを確信した

カーンズ歯科医はタバコ業界と戦う教員の専門知識から得られる業界の戦術を分析する方法を学ぶために、2013年に博士研究員としてUCSFに入りました。1990年代に、UCSFが何千ものたばこ業界の文書を分析したところ、たばこ会社は何十年もの間、喫煙の重大な危険性について知っていたことを暴露しました。

彼女の運動は甘味料の潜在的に有害な健康への影響を軽視する製糖産業の数十年にわたる戦略を明らかにしました。彼女は、業界がその商業的利益を保護し、規制に影響を与え、世論を形成するために科学を操作したという強い証拠を見つけました。(業界は、砂糖協会による公の声明を通じてこの評価に異議を唱えています。)
JAMA Internal Medicineに発表された彼女の研究の1つには、後に砂糖協会になったSugar Research Foundation(砂糖研究財団)が、1954年の初期には、アメリカ人が低脂肪食を採用すればショ糖一人当たりの消費量は3分の1に減ることを認識していたことを示しました。

しかし1960年代半ばまでに、研究者は砂糖が心臓病に関連しているかどうか疑問に思い始めました。砂糖研究財団は糖や脂肪、そして心臓病に関する既存の研究をレビューするために、現在の50,000ドルに相当する金額を3人のハーバード大の科学者に支払いました。名高いニューイングランド医学ジャーナル(NEJM)に掲載された彼らの分析は、砂糖と心臓の健康との関連性を最小限に抑え、代わりに「脂肪」を犯人に仕立て上げました。

「これは明らかに偏った評価でした」とカーンズ氏は言います。彼は業界と研究者の間のコミュニケーション、およびレビューに含まれる研究を分析するのに1年を費やしました。「文献レビューは心臓の問題を引き起こすものについての見解だけでなく、食事の危険因子を評価する方法の科学の見解を形作る助けをしてくれました」と彼女は言います。
カーンズ氏とシュミット博士によるとこれらの戦術は1970年代初頭に始まり、肥満の増加と平行して低脂肪が流行る一因となりました。多くの医療専門家がアメリカ人に脂肪摂取量を減らすように促しました。そしてそれは人々に低脂肪であるが砂糖を積まれた食物を食べさせることになってしまいました(SnackWellのクッキーを考えてください)。

JAMA論文の共著者であるシュミット氏は、この傾向は「私たちの健康に良いことについての事実を歪めるために、産業が科学をどのように深く浸透させてきたか」の一例です。

PLOS Biologyに掲載されたカーンズ氏のもう一つの研究は、業界が重要な科学的証拠を差し控えたことを示しました。1968年に砂糖研究財団は、砂糖と心臓の健康の関係を明らかにするために動物を利用した研究プロショ糖が腸内細菌と相互作用ジェクトに資金を提供しました。初期の結果は、ショ糖と膀胱癌の間に関連の可能性があることでした。することによって血中トリグリセリドを上昇させるという決定的な証拠を得た数週間以内に、財団は研究を終了させてしまいました。結果は公表されませんでした。当時、FDAは砂糖を多く含むの食品を規制するかどうかを決ようとしていました。カーンズ氏は、結果が公表されていれば、砂糖がより綿密に精査された可能性があると言います。

まだ何千もの文書を分析する必要がありますが、より多くのアーカイブが確認されているので、業界の影響について表面をちょっと引っ掻いただけだと彼女は思っています。「膨大なので何年もすることになるかもしれません。」

糖尿病の専門家であるシリンジャー氏はまた、砂糖科学の偏向を精密に検査しています。カーンズ氏と共同執筆したAnnals of Internal Medicineの報告書の中で、彼は2001〜2016年までの60の研究で糖飲料が肥満または糖尿病の原因となっているかどうかを調べました。関連性がないとされた26の研究のうち、すべてが糖甘味飲料業界によって資金を供給されたか、または業界と経済的なつながりを持つ人々によって施行されました。飲料と肥満または糖尿病を関連づけた34の研究のうち、1つだけが飲料業界によって資金を提供されていました。残りは無関係で資金提供を受けていました。
「これはこれまでで最強の関係でした…私は利益関係と科学の間を見ました」とシリンジャー氏は言います。

自分を責めるのをやめる

砂糖が関係する慢性病は食事や身体活動の変化によってほとんど予防できるので「怠けてる」とか「ダメなものを選んでいる」とか非難しがちです。
ソーダ業界は自社製品を健康的なライフスタイルの一部として楽しむことができると主張することで、不信感を大きくしています。

「そんな考えはナンセンスです」と砂糖学者は言います。

「病気になったからといって個々を責めるのをやめて、狂った食環境を変えなくてはいけません」とシュミット博士は言います。
「それは非常に大きな負担となります。食品の74%に砂糖が入っているため、チョイスがすごく限られているのです。」
そしてその負担は健康食品を買って作る時間やお金がない人々には最も重い負担です。

科学者や政策立案者はビッグタバコ(米国の「三大」たばこ企業)と闘うために使用された同じ公衆衛生予防戦略を真似ることで(砂糖業界の)状況を変えることができる、とシュミット博士は言います。

「50年代から60年代は喫煙が当たり前だったことを忘れるのは簡単です」と彼女は説明します。
人々は職場でやレストランさらには病院、飛行機でタバコを吸っていました。
「私たちの医療センターの自動販売機でタバコが買えました」と彼女は言います。
「公衆衛生当局は環境を変えました。喫煙の評判は悪化しました。」
「彼らはたばこの危険性の証拠を集めること、人々にその害について警告すること、課税を主張すること、たばこをカウンターの後ろに置くこと、そして喫煙をバーや公共の建物で禁止することなどを呼びかけました。結果、肺がんの死亡率は急落しました。」

「私たちは、砂糖をめぐる戦いの初期段階にあります」とシュミット博士は言います。
UCSFは、すでに次のような多くの戦略を実行し始めています。

1. 立法者や一般市民に証拠に基づいた情報を提供する

UCSFのウェブサイト(SugarScience.ucsf.edu)は砂糖とその健康への影響の証拠をハイライトしています。
8000以上の科学論文をしらみつぶしにレビューし、著者の偏見や利害関係を含む研究を厳しく評価しています。

さらにたばこ業界の文書を保管しているUCSF業界文書ライブラリーとUCSFのフィリップ・R・リー健康政策研究所は、2018年11月に史上初の食品業界文書アーカイブを立ち上げました。それは業界が人々の健康をどのように操作しているかを明らかにした、カーンズの資料を含め、食品業界の幹部によるこれまで秘密にされてきた数千もの文書が含まれています。 その資料はジャーナリストや学者、そして一般に公開されています。

2. 私たちを病気にする課税された商品

シュミット博士は、ベイエリアやインドからアフリカ、そしてメキシコと世界中の政策立案者と共にソーダ税に取り組んでいます。
「いわゆる課税という政策は好循環をもたらす引き金となります。」と彼女は言います。
課税は消費者に有害製品の購入をゆるやかに阻止し「糖尿病のより良いスクリーニング」「低所得地域での給水所の建設」「公衆衛生メッセージの公布」など政府が予防対策により資金をかけることが可能になります。

しかし、飲料業界はそのような税金が低所得者にとって食料品の購入や不当なソーダの排除をより困難にしていると主張しています。
「しかし、健康的な食料や清潔な水へのアクセスを促進するプログラムを通じて税収が低所得層のコミュニティに返還される場合は、適応されません」とシュミット博士は述べています。
この業界は過去10年間でソーダ税を取りやめるために全国で数百万ドルを費やしてきました。
2018年6月、カリフォルニア州議会はソーダ業界がカリフォルニア州の市や郡で12年間加糖ドリンクに新たな税金を課すことを禁ずることを支持する法案を可決しました。
UCSFの研究者達は市や郡がそのような税制では食事による慢性疾患を予防することを著しく台無しにしてしまうと言います。

「それは本当に嫌な週でした」とシュミット博士は言いました。
「これらの会社は私たちを完全に打ち負かしました。それはダビデ対ゴリアテみたいです。」
「そんな闘争はだからこそ科学者が政策決定者や一般の人々に証拠を渡す必要があるためです。」と彼女は言います。

3. 人々に害を警告

UCSFのシュミット博士、シリンガー先生などが警告を発していますが、ソーダ業界はこれらの取り組みを妨げています。
研究者らは2015年、砂糖で甘くした飲料を宣伝する看板に警告通知を義務付ける世界初の条例を通過させるために地元の議員と協力しました。
「これは大変でした」とシリンガー先生は言いました。
「公衆衛生のための素晴らしいランドマークです。」

しかし飲料業界は条例に異議を申し立て、上訴裁判所は不当に1つの製品グループを対象としているということでブロックしました。
2018年1月、控訴裁判所はこのケースを再審理するとしました。

その影響に目覚めましょう

「何が起きているのか気づくために、一般大衆が必要です」とサンフランシスコで看板条例阻止の企業の訴訟に対する弁護のエキスパートであるシリンガー先生は言います。
研究と実際に現場で患者のケアに携わっている経験から、砂糖闘争はもっと多くの利害関係者を必要とする社会的問題であると彼は確信しました。
「もしこれが単なる医療問題対企業なら、我々は負けるでしょう」と彼は言います。
これを終わらせるためにシリンガー先生とUCSFの脆弱人口センターは、糖尿病を単なる医学的問題ではなく社会的・環境的問題として糖尿病を見直すため一人称の話し言葉で有色の若者の怒りを励ますソーシャルメディアキャンペーンを共同で作成しました 。
「ビガーピクチャー」と呼ばれるこのキャンペーンは、約200万回の視聴を獲得し、数多くの公衆衛生および映画/メディア賞を受賞しました。
多くの保健所がパブリックメッセージのためにそれを採用しました。
シュミット博士は他の心強い傾向を指摘しています。例えば、33カ国でソーダ税が実施されていますが、砂糖による病気の津波を防ぐためにはまだ長い道のりがあります。
「これらの業界は砂糖を売ります。それが美味しく、人々が望んでいることを知っています。だから止めるつもりはありません。」

しかし科学を重視すると、UCSFの研究者は違います。
彼らは追加された砂糖の支配の甘い結末を探し続けるでしょう。

もっと知りたい方に

🔵 糖甘味飲料は肥満と糖尿病を引き起こすか 産業界と科学論争の製造(英文)
Annals of Internal Medicine(2016)、Dean Schillinger et al. DOI:10.7326 / L16-0534

🔵 ショ糖を高脂血症および癌と関連づける無菌げっ歯類研究の砂糖産業支援:内部文書の歴史的分析(英文)
PLOS Biology(2017)、クリスティン E. カーンズら DOI:10.1371 / journal.pbio.2003460

🔵 砂糖産業と冠状動脈性心臓病研究(英文)
JAMA Intern Med.(2016)、クリスティン E. カーンズら、DOI:10.1001 / jamainternmed.2016.5394

関連記事一覧

  1. この記事へのコメントはありません。