白血病の最新治療法の開発に成功か!? 化学療法・放射線療法を使わずに骨髄移植を実現 (2019年ハーバード大報告)

ニュース/レビュー

今回は白血病治療や血液系の病気の治療に変革をもたらす新しい骨髄移植法が開発されたので報告します。

ハーバード大学のプレスリリースが英語で発表されましたので、それを翻訳したものをここでご紹介します。

ニュースタイトル「より安全な骨髄移植に向けて

ニュースの副題「マウスで成功した新しいハーバード主導の研究は、毒性なしでより安全な移植への道を示す

写真は、移植後の骨髄にニッチが見つかった造血幹細胞(白)〔出典:The Harvard Gazette


骨髄幹細胞移植として知られる血液幹細胞の移植は、白血病鎌状赤血球症をはじめ、多くの血液、免疫、自己免疫、代謝障害の治療に用いられています。しかし健康な血液細胞を確実に「取り込ませる」ために、まず集中強化の化学療法または放射線全身照射を使用して、患者自身の問題のある血液幹細胞を亡くす必要があります。これは患者の免疫系を一掃してしまうため、感染の危険性を高め、貧血、不妊、二次がん、臓器障害、死亡さえも含む深刻な副作用を引き起こすことがしばしばです。

ハーバード幹細胞研究所の副所長であり、マサチューセッツ総合病院の再生医療センターの所長であるDavid Scadden教授は次のように話しています。
「幹細胞移植が自己免疫疾患に対する大きな効果など、数十の血液疾患の治療に大変有効なことはわかっているのです。それでも、患者が耐えなければならない厳しさのせいで、血液がんの他にはこの治療が選択されることはほとんどありません」

Scadden教授らはこの有害な前処理に替わる効果的な方法を、マウスで実証する研究を行いました。Nature Communications に発表されたこの方法がヒトへの臨床試験への道を開き、血液幹細胞移植をより安全なものとし、より多くの患者が利用できるようにするものです。

「この研究で実証された原則が、臨床に適用できればこれまで許容範囲が高ければ適用できたと考えられていた多くの患者に対して、幹細胞移植を行えるようになります」と、共著者のDerrick Rossi氏は述べています。

有望な抗体

これまでの研究では、特定の抗体が主に造血幹細胞に存在する受容体CD117を阻害することが示されていました。遺伝的に免疫機構が欠損しているマウスでは、この抗体を投与するとこれらの細胞を選択的に死滅させるため、化学療法や放射線照射が不要になります。しかし抗体だけでは十分ではありません。ヒトにおけるこの抗体を用いた臨床試験は、重症複合免疫不全症と呼ばれるまれな疾患の患者で現在行われています。

研究者が試験したこと

この知見に基づき科学者たちはCD117を標的にし、かつ細胞内に取り込まれる抗体を同定しました。すなわちこれは、CD117を有する幹細胞に特異的かつ直接、毒素を運ぶことができる物質であるためサポリンSaporin呼ばれる薬を結合させ実験を行いました。サポリンは、細胞内でタンパク質を合成する働きを持つリボソームを阻害する薬剤で、既にガン治療に用いられているものです。この結合物が重要なタンパク質の合成を阻害することで、造血幹細胞だけを効果的に死滅させられることを期待したのです。

サポリン-L1の構造(出典:rcsb.org


その通りの結果が得られました。Nature Communications の論文では、抗体-薬剤結合物をマウスへ1回投与しただけで99%の造血幹細胞が取り除かれたのです。その結果移植された幹細胞は投与されたマウスの体内に留まり、損傷した血液と免疫系を効率的に置き換えました。抗体-薬剤結合物は幹細胞だけを標的としたため、他の血液細胞を損なわず、重大な副作用を起こすこともなかったのです。実験動物の免疫細胞機能は保持され、病原体に効果的な反応を示しました。

以前のCD117研究にも深く関わっていた筆頭著者であるボストン小児病院のAgnieszka Czechowicz氏は、
「高い効果を示すという理屈を示してはいたものの、これほどうまくいくとわかったことで、安堵と興奮を同時に味わいました」
と述べています。

次のステップ

今後の課題は、抗体-薬剤結合物の安全性と有効性の評価、および他の有効な結合物の探索です。

ケンブリッジのMagenta Therapeutics氏は、この技術のライセンスを取得し患者への適用に向けての開発と試験に取り組んでいます。 同社は2018年12月のアメリカ血液学会で、抗CD117抗体、および他の抗体-薬剤結合物に関する、前臨床データを発表しました。

論文の共著者であるハーバード大学幹細胞再生生物学科のRahul Palchaudhuri氏は、次のように述べています。
「これらの結果は、移植研究の分野にとって変革的なものです。毒性の高い処置を行うことなく、安全に効果的に移植を行えることを可能にするものです」

Scadden教授は、次のように話しています。
「このアプローチが人間にも有効であれば、多くの異なる病気を患っている患者に(大きな)変化をもたらすことができます。患者と医師との会話は恩恵と治療のことが主となり、リスクや苦しみのことは少なくなるべきでしょう。それこそが我々の目標です」

引用ニュース & 原著論文

🔵 英語ニュース:Toward safer bone-marrow transplants( Harvard University – Gazette

🔵 原著論文: Selective hematopoietic stem cell ablation using CD117-antibody-drug-conjugates enables safe and effective transplantation with immunity preservation (Nature Communications volume 10, Article number: 617 (2019))

Seigoの追記

化学療法や放射線療法をしなくても、白血病の原因となっている幹細胞を抗体-薬剤結合物(CD117に対する抗体とサポリンが結合したもの)だけでなくすことできるとしたら、それはすごい進歩ですね。

髪の毛を失ったり、免疫細胞を損なわないで治療ができるということなら、患者さんへの負担がすごく減りますね。

この研究に注目です!

白血病関連の書籍


(本の画像をクリック/タップするとAmazonの商品ページへジャンプするようにリンクを貼っておきました)

関連記事一覧

  1. この記事へのコメントはありません。