缶詰めのコーティング剤BPAを子供が取り込むと大人になって生活習慣病を発症しやすくなることが判明!【最新論文】

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BPAは日本人の体に循環していることが判明し、それが外国よりも日本人のほうがかなり多いことが分かっていました、そのBPAが不妊を起こす可能性のあることまでは分かっていました。

本日は子供の時にBPAに曝露させると大人になってからも影響があることが発見され、甘くて脂っこいものを食べ過ぎるとメタボをすぐに発症することが動物実験により実証されてしまいました。

Nature Communications 誌からの研究で、その要約を書き留めておきます。

BPAはエピゲノムの老化を加速し、その影響は一生を通して続き生活習慣病を発症しやすくなってしまっていることが判明しました

幼い時は肝臓などの器官が分子レベルで発達しているので、うまく完了しないと代謝に影響し、大人になってから生活習慣病などの病気にかかりやすくなったりするかもしれません。

研究の要約
赤ちゃんラットが内分泌かく乱化学物質EDC)を体に取り込んでしまうと、肝臓のエピゲノムに問題が起こり成人してから甘くて脂っこい欧米食などを食べ続けてしまうとメタボ病にかかりやすくなることを実証しました。


エピゲノムとは?

細胞の中にあるゲノムDNAや、DNAが巻き付いているヒストン蛋白質にくっつくさまざまな化学修飾 (メチル化やアセチル化) によって遺伝子の発現が変化します。DNAの塩基配列を変えることなく、遺伝子のはたらきを決めるしくみをエピジェネティクスとよび、その情報の集まりがエピゲノムです。

遺伝情報は生まれる前から決まっていますが、これらの化学修飾は後天的に起こることなのでエピジェネティックスと言います。(エピはエピローグなどに使われるのと同じで、ギリシャ語で「後で」という意味です)

エビゲノムの変化は、細胞が分裂した後の細胞に受け継がれていき、自然に元に戻ることはほとんどなく、それが人の個性や病気の性質にも影響を与えると考えられています。

実験方法

余計なエストロゲンを減らすためにラットをポリカーボネートのないケージで育て、植物性エストロゲンの少ない餌を自由に食べさせました。

生後1、3、5日目の赤ちゃんラットのグループにそれぞれゴマ油のみ(コントロール)とビスフェノールA(BPA;50 µg / kg)を入れたごま油を与えました。

180日目に両方のラットグループに、高脂肪(40%kcal)、フルクトース(20%kcal)、コレステロール(2%)の西洋スタイルの食事を60日間与えました。

ラットを一晩絶食させてから組織を採取し、以下の分析を行いました。

・アラニントランスアミナーゼ活性アッセイ
・血清トリグリセリドレベルの測定
・NAシーケンスおよび定量的リアルタイムRT-PCR(RT-qPCR)
・クロマチン免疫沈降(ChIP)、ChIPシーケンス、エピゲノミクスデータ分析
・肝メタボロミクス

BPAとは?

この研究で使用した内分泌撹乱物質はビスフェノールA(BPA)です。BPA缶詰飲料ボトルの内側のコーティングプラスチックのパッケージビンの蓋の裏などに使われています。すでに大気や河川からも検出されており、カナダでは6〜79歳の9割以上もの人の尿から検出されているくらい世界中に存在し避けることはできない環境ホルモンで、 不妊 生殖器系のガン などが懸念されています。〔文献 (英文):2007〜2009年のカナダの人口におけるビスフェノールA濃度

結果

生まれて1、3、5日目の赤ちゃんラットに低濃度のBPAを与えても、すぐには肝臓や血液などに異常は見られませんでした。しかしBPAによりエプゲノムの老化が見られました(若いのに老化したようなゲノムの変化が見られる)。ヒストン修飾はH3K4me1、H3K27ac、H3K27me3が、H3K4me3よりも変化していました。
〔例:H3K4me1の意味は、ヒストンH3タンパク質サブユニット上のリジン モノメチル化を示しています


しかし大人になって脂肪、フルクトース、コレステロールの多い西欧食を与えると、オスに肝臓肥大と脂質異常症が認められました。遺伝子レベルでは、食事やストレスに応答し、肝臓の代謝に関係する遺伝子をコントロールする転写因子Egr1(初期増殖応答タンパク質1)の発現が大幅に上がりました。

 原著論文

🔵 原著論文オープンアクセス;論文全体が無料で読めます): Epigenome environment interactions accelerate epigenomic aging and unlock metabolically restricted epigenetic reprogramming in adulthood.
Nature Communications, 2020, May 8;11(1):2316. doi: 10.1038/s41467-020-15847-z.

seigoの追記

低濃度のBPAを子供の時に少し体に取り込んでしまうと(研究ではラットを使用)、症状はなくてもある種の老化状態になっていることが発見されたのは衝撃的です。BPAはいたる所にあるという日本の現状では、病気の引き金を引かないために、糖分や脂肪分の多い食事(ハンバーガーなど)をなるべく控える食生活を心がけることは大切かも知れません。

このように「BPAの悪影響が後から生じるという現象」の発見はこれが初めてではなく、4年前にも妊娠中の胎仔(マウス)が低用量でもBPAにさらされると、子供マウスのすい臓のβ細胞の数が増加し、 高インスリン血症 大人になってから誘発してしまったという結果があります。〔文献 (英文):妊娠中の母親のビスフェノールAへの曝露は、雄マウスの子孫の初期の人生における膵臓のβ細胞の成長を増加させます Endocrinology, 2016〕

なので妊娠中や生まれたばかりの子供の食事BPAフリーを心がけることが大切です。

非アルコール性脂肪性 疾患 (NAFLD) もBPAで引き起こされている可能性が高い

これまで、BPAの尿中濃度が高いことを報告している論文では、幼児における 肝臓の有害な変化 と関連し(文献1,2)、青年期における NAFLD(非アルコール性脂肪性肝疾患)のリスクの増加とも関連がありそうです(文献3)。

日本ではNAFLDの有病率は30%に上昇しているのもBPA曝露と関係がありそうです。

文献1. 肥満の子供におけるビスフェノールAと心血管代謝の危険因子
Sci. Total Environ. 470-471, 726–732 (2014).

文献2. ビスフェノールA曝露と子供の肝臓酵素の血清レベルとの関連に関する前向きコホート研究
Environ. Res. 161, 195–201 (2018).

文献3. ビスフェノールAは、NHANESによる2003〜2010年の調査結果によりますと、ヒスパニック系青年で推定される非アルコール性脂肪肝疾患のリスクを高めますオープンアクセス;論文の全文が無料で読めます)
Environ. Health 17, 12 (2018).

参考資料:「なぜ今、エピゲノムなんですか? エピゲノムって、なんですか?」IHEC Team Japan

BPA不使用の製品

BPA不使用の製品を日本で見つけるのは大変難しいです。
私が米国で愛用していたエデンの缶詰(BPA不使用)が楽天市場でも買えるそうなのでリンクを貼っておきます。


当サイトのBPAに関する過去記事


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