腸内フローラ改善によりがん抑制効果が上がることが判明! (2019年米国研究)

ニュース/レビュー

今回は腸内の細菌が免疫系にがんと闘うように指示するという研究報告です。

米国サンフォードバーナムプレビス医学研究所のプレスリリースを翻訳しましたのでご紹介します。

またこの原著論文はオープンアクセスなので、全文が無料でご覧になりません。(下にリンクを貼っておきます)

ニュースタイトル「腸内フローラは免疫系にがんと闘うように指示する」

免疫チェックポイント阻害剤腫瘍細胞の免疫回避機構を阻害する抗悪性腫瘍薬の1群)の出現 ― 身体の免疫系の「ブレーキを解放して」効率的な腫瘍攻撃を開始する薬剤 ― はがん免疫療法における大きな進歩です。しかし、これらの治療法は誰にとってもうまくいくわけではなく、多くの場合重大な副作用を伴います。

したがって、免疫チェックポイント阻害剤に対する潜在的な反応に基づく患者の層別区分化が可能であれば、がん治療をパーソナライズすることができます。(免疫系が腫瘍と戦う時の)抗腫瘍免疫の調節を理解すると腸ミクロバイオーム(腸内フローラ)の重要性を指摘しています。しかし、根本的な分子メカニズムは、ほとんど理解できていません。

現在、サンフォードバーナムプレビス医学研究所(Sanford Burnham Prebys)が率いる40人以上の科学者と3つの病院の提携となる世界的な共同研究から、腸内微生物叢(腸内フローラ)と免疫系のがんとの闘いの因果関係を示しています。研究者たちは併せて、免疫系を活性化し、そしてマウスに黒色腫の成長を遅らせる11の細菌株のカクテルを確認しました。この研究はまた、タンパク質の健康状態(恒常性)を維持する細胞内シグナル伝達経路である小胞体ストレス応答(UPR, unfolded protein response)の役割も指摘しています。免疫チェックポイント療法に対応する黒色腫患者ではUPRの低下が見られ患者の層別区分に適応する潜在的なマーカーが明らかになりました。この研究はNature Communications(ネイチャー・コミュニケーションズ)誌に掲載されました。

シカゴ医学大学のAbbVie財団のがん免疫療法教授であるThomas Gajewski医学博士は「免疫療法は多くのがん患者に延命をもたらしました。しかし、今日私たちが目にしている驚くべき効果は氷山の一角に過ぎません。」として、「治療反応と抵抗のメカニズムを研究することによって、結果的に免疫治療の恩恵を被る人々の数を拡大します。この研究は、この目標に向けての重要な一歩を提供するものです。研究者らは、腸内フローラと抗腫瘍免疫との間の重要な関連性として小胞体ストレス応答(UPR)を指摘しました。チェックポイント遮断免疫療法の有効性における宿主腸内フローラの因果的役割を明かした前回の研究を考えると、今回追加された推定されたメカニズムは、治療に対応する患者を選択し、また新しい治療法の開発へと導くのに役立つはずです」と述べています。

免疫チェックポイント療法は患者の生存率を大幅に改善しましたが、米国がん協会(American Cancer Society)によれば、転移性黒色腫は依然として最も致命的な皮膚がんの形態であるとのことです。免疫チェックポイント阻害薬は、併用療法の一部として使用した場合でも、患者の約半分にしか効果がなく、これらの反応は自己免疫関連の副作用、耐久性(患者が治療に反応する期間)の制約、そして時には治療拒絶が伴います。効果的な免疫療法において、エビデンスを蓄積することが、腸内フローラの役割を裏付けています抗生物質と一部のプロバイオティクスは治療効果を低下させ特定の細菌株は効果を高めています。この研究はこれらの観察に新たな光を投げかけるものです。
この研究の著者であり、サンフォードバーナムプレビス医学研究所NCI指定のがんセンターの教授、ロナイ(Ze’ev Ronai)博士は、「我々の研究はミクロバイオーム免疫と抗腫瘍免疫との間の正式な関連性を確立し、このプロセスにおける小胞体ストレス応答(UPR)の役割を指摘し、この分野に対する長年の質問に答えています」として、「これらの結果はまた、抗腫瘍免疫をオンにすることができる細菌株のコレクションと、選択されたチェックポイント阻害剤による治療のために黒色腫を有する人々を層別区分化するために使用できるバイオマーカーを特定します」と述べています。

「退屈」マウスは刺激的な結果をもたらします

ロナイ博士は、がんがどのようにストレスに反応し治療抵抗性になるかを理解するために彼の研究室の努力の多くを捧げてきました。この研究の一環として、彼と彼のチームは、不適切に折り畳まれた、または損傷したタンパク質を除去するのを助けるユビキチンリガーゼであるRINGフィンガータンパク質5RNF5)の遺伝子を欠く遺伝的マウスモデルを研究しています。これらの分子的形質は現在の研究にとって重要であるが、マウスは病気の外的徴候を全く示しません。

ロナイ博士は、「私たちはそれらを『退屈マウス』と呼んでいます。なぜならそれらは顕著な表現型を持っていないからです」と言います。

しかしながら、RNF5欠損マウスは、それらが無傷の免疫系および腸内フローラを有する場合には、黒色腫腫瘍の増殖を阻害することができました。抗生物質のカクテルで、これらのマウスを治療、またはその平常的(野生型)同腹仔マウスを収容し、抗腫瘍免疫表現型を無効にし、その結果 腫瘍拒絶反応は ― 即ち、抗腫瘍免疫における腸内フローラの重要な役割が示されたこととなります。

トール様受容体および選択樹状細胞を含め、腸内環境のプロセスに関与している免疫成分をマッピングすることで、いくつかの免疫システムが明らかになりました。減少した小胞体ストレス応答(UPR)は、免疫および腸上皮細胞において一般的に識別され、そして免疫細胞を活性化するに十分でした。減少したUPRシグナル伝達はまた、マウスにおいて見られる改変された腸内フローラと関連していた。

高度なバイオインフォマティクス技術により、科学者はRNF5を欠くマウスの腸に富む11の細菌株を同定することができた。これらの11の細菌株を、腸内細菌を含まない(無菌)通常のマウスに移植すると、抗腫瘍免疫応答が誘導され、腫瘍増殖が遅くなりました。

人のデータ

この研究結果がヒトの疾患に関連していることを確認するために、科学者らは、その後チェックポイント阻害剤治療を受けた転移性黒色腫を有する人々の3つのコホートから組織サンプルを採取しました。確かに、小胞体ストレス応答(UPR)成分(sXBP1、ATF4およびBiP)の発現低下は治療に対する反応性と相関しており、免疫チェックポイント療法を受けるべき患者を選択するための潜在的に予測可能なバイオマーカーがあることを示唆しています。

次に、科学者たちは細菌が何を生産しているのかを確認することを計画しています。代謝産物と呼ばれるこれらの製品は、抗腫瘍免疫を増強する能力を決定するだけでなく、メラノーマ患者の腸内での存在を高めるために使用される可能性のあるプレバイオティクスを定義するためにテストされます。

ロナイ博士は、「この研究は、抗腫瘍免疫と自己免疫のバランスに関するもう一つの根本的な問題に当てはまると私たちは信じています」として、「RNF5を欠くマウスも腸の炎症を発症する傾向があるため(特定の免疫チェックポイント療法では副作用が見られるため)この研究の強力なモデルを利用して自己免疫と抗腫瘍免疫のバランスをいかに崩せるか研究できます。人々はこれらの驚くべき治療から恩恵を受けています」と言いました。

引用ニュース & 原著論文

🔵 英語ニュース:Gut microbiome directs the immune system to fight cancer

🔵 原著論文(オープンアクセス;論文全文が閲覧できます) :Gut microbiota dependent anti-tumor immunity restricts melanoma growth in Rnf5−/− mice (Nature Communicationsvolume 10, Article number: 1492 (2019) )

Seigoの追記

この論文で一番興味を引いたのはこの部分です。

高度なバイオインフォマティクス技術により、科学者はRNF5を欠くマウスの腸に富む11の細菌株を同定することができた。これらの11の細菌株を、腸内細菌を含まない(無菌)通常のマウスに移植すると、抗腫瘍免疫応答が誘導され、腫瘍増殖が遅くなりました。 

腸内細菌を移植しただけ(11種類)で、免疫が活性化され、がんの増殖が遅くなったとのことです。

これからはがんになったら抗がん剤や放射線治療ではなく、まず「うんこ移植」から始めるのだろうか・・・

「うんこ移植」じゃ汚い言い方だから、「腸内フローラ移植」にしてオシャレなイメージをつけましょう 😄

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