抗菌ペプチドΩ76の作用機序とは? 抗生物質が効かない悪魔の細菌に対して新しい武器 (2019年最新論文)

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日本の病院でも多数の死者が出ている抗生物質が効かない悪魔的な細菌に対して、インドの研究者が抗菌ペプチドをコンピューターでデザインして、その細菌を殺すことに成功しました。

この結果は論文に出版され(無料で読めるオープンアクセスです!)、またインドのサイトに研究のレビュー記事(英文)が発表されました。今回はそのレビュー記事を翻訳しましたのでご紹介します。(翻訳のプロではないので読みづらかったらすみません m(_ _)m )

多剤耐性菌を迅速に殺す新規ペプチド

インド科学研究所(IISc)の研究者らはAcinetobacter baumannii (アシネトバクター・バウマニ, 以後バウマニ菌と呼ぶ) と呼ばれる悪名高い多剤耐性菌を効果的かつ迅速に殺菌することができる抗菌ペプチド(AMP, antimicrobial peptides) をデザインしました。

この細菌は、急速に薬剤耐性を獲得する性質のため、新しい抗生物質が緊急に必要であるとして、WHOが脅威リストのトップに挙がっています。また、病院や医療現場での感染症の原因のほとんどを占めている6種のうちの1つです。

Science Advances 誌で公開された新しい研究では、IISCの研究者はバイオインフォマティクスの手法を使用して、細胞膜を破壊することによりバウマニ菌を殺菌することができるオメガ76 (Ω76 または Omega76) と呼ばれる新しい短いタンパク質(ペプチド)を設計しました。Omega76を投与した感染マウスの生存率はかなり改善され、高用量のオメガ76を長期間投与した場合に毒性作用を引き起こさないことも示されました。安全で効果的であるため、新しい抗生物質を開発する有望な候補であると研究者は言います。

抗生物質耐性は、特に医療環境で感染症を発症する何億人もの患者にとって、世界的な脅威となっています。バウマニ菌耐性を非常に迅速に発現し、病院で長期間生存する能力で、 特に脅威 とされています。

Acinetobacter baumannii (アシネトバクター・バウマニ) 菌の電子顕微鏡写真(出典:Wikimedia Commons, by phil.cdc.gov, Link


バウマニ菌の感染の重要性は以前は十分に理解されておらず、環境の細菌と同様と見なされていました。特に集中治療室では、今では大きな脅威となっています」と、上級著者の一人である、微生物学および細胞生物学科のDipshikha Chakravortty教授は述べています。

こうした感染に対する抗生物質は、カルバペネムなどの最終手段の薬剤への耐性が既に見られているように、すぐに無効になる可能性があります。また、多剤耐性感染症の最後の希望と考えられているコリスチンが、重度の腎障害を引き起こすように、これらの薬が必ずしも安全なわけではない、と第一著者であるDeepesh Nagarajan博士研究員は指摘しています。

抗菌ペプチドのデザイン

最近、膜を破壊することにより細菌を殺す抗菌ペプチド(AMP, antimicrobial peptidesと呼ばれる短いポリペプチドが、従来の抗生物質の代替物として有望であることが示されました。

標準的な薬物は、細菌細胞内の特定の経路またはプロセスをブロックすることにより作用しますが、細菌は進化してそのような薬物に対する耐性を獲得することができます。
「一方で、AMP細菌の細胞膜に穴を開けます。複数の方法で作用し、実際の物理的損傷を引き起こすため、薬物耐性の可能性ははるかに低くなります」と、上級著者のNagasuma Chandra生化学教授は述べています。

新しいAMPの設計とテストには、Chandraの計算生物学研究室とChakravorttyの微生物学研究室との共同研究が重要な役割を果たしました。彼らは、既知のAMPの構造を、グラフィック表示のデータベースに変換するために、バイオインフォマティクスに注目しました。彼らはデータベースを精査の上、最大の抗菌力を授ける繰り返しパターンと特性を最適化し、新しい構造を提案するアルゴリズムを作成しました。たとえば、らせん構造を形成する傾向は、膜破壊を促進させるものとしてアルゴリズムが突き止めた特性の1つでした。

アルゴリズムによって提案された上位5つのペプチド構造が、研究室で設計およびテストされ、そのうちの一つであったオメガ76がバウマニ菌を殺すのに最も効果的であり、1時間以内にすべての細菌コロニーを完全に除去することがわかりました。感染マウスでテストした場合、未治療のマウスは全て死亡したのに対し、オメガ76を投与した8匹中6匹が5日間生存しました。

また、オメガ76が正常細胞に重大な損傷を引き起こさないことも明らかにされました。致死量の中央値は、コリスチンおよび最近開発されたAMPの一つペキシガナンよりも高く、安全に使用できることが示されました。 マウスでは、重度の損傷を引き起こすことなく、Omega76の複数の高用量を数日間にわたって投与が可能で、 コリスチンと組み合わせて安全に投与することもできることが示されました。

「今回の共同研究は、このペプチドの設計と有効性の両方を理解するのに非常に役立ちました」とChandra教授は述べています。彼女とChakravortty教授は、設計をさらに改善し、糖尿病性創傷の治療や病院環境での敗血症への取り組みなどの臨床用途を探求する予定です。

ーーー 翻訳ここまで ーーー


引用ニュース & 原著論文

🔵 英語ニュース:A novel peptide to rapidly kill multidrug-resistant bacteriaIndian Institute of Science

🔵 原著論文 (オープンアクセス;論文の全文が無料で閲覧できます): Ω76: A designed antimicrobial peptide to combat carbapenem- and tigecycline-resistant Acinetobacter baumannii
Science Advances, July 2019.
→ 最近はGoogle翻訳性能が良くなってきて読みやすい日本語に翻訳してくれるようになってきました。ご活用下さい。(Google翻訳はこちら

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Seigoの追記

日本でも多数の死者を出している多剤耐性菌のAcinetobacter baumannii(アシネトバクター・バウマニ)に対して、新しい抗生物質ではなく、新しい武器の抗菌ペプチド オメガ76 (Ω76)が登場しました。

作用機序は、Ω76はαヘリックス構造を有しており細菌の壁にくっつくと穴を開けて、膜破壊、漏出、細菌死へと導くそうです。

しかも新たな薬物耐性菌を生む可能性がはるかに低いそうなので、今後かなり期待きるとのこと。

自然の生物がつくる抗菌ペプチドは知っていましたが、インドの研究者は今までの抗菌ペプチドの構造をデーターベース化して全く新しい抗菌ペプチドを人工的にデザインしてしまったということです。

頭の良いインド人の方が設計したと聞くと、なんかすごく効きそうですね 😄

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