CTスキャン3回分の放射線量で癌が増殖し始めることが科学的に判明!? & 初期がん細胞の簡単な除き方も (Cell Stem Cell誌)

ニュース/レビュー

久しぶりに低線量の放射線の論文が、幹細胞の分野でトップレベルのジャーナル「Cell Stem Cell」に発表されました。

この研究は英国のウェルカム・サンガー研究所で行われ、プレスリリース(英文)が研究所のサイトにアップされましたので、翻訳したものをご紹介いたします。(翻訳のプロではないので読みづらかったらすみません。

また発表されたCell Stem Cellの論文はめずらしくオープンアクセスですので、どなたも無料で全文が閲覧できます。リンクを和訳の後に貼っておきます。
→ 最近はGoogle翻訳の性能が良くなってスムーズな日本語に翻訳してくれるようになってきました。(時々変ですが)ご活用下さい。(Google翻訳のページはこちら

低線量の放射線はがんになりやすい細胞を増やす

実験動物のマウスを使った新しい研究は、CTスキャンやX線などの低線量の放射線を浴びた場合のリスクを理解するのに役立ちます

安全ということになっているCTスキャン3回分の放射線量は、正常な細胞よりがんになりやすい細胞に対して増殖を促す作用があることを科学者は発見しました。ウェルカム・サンガー研究所(Wellcome Sanger Institute)とケンブリッジ大学の研究者は、マウスの食道における低線量の放射線の影響を調べました。

この研究チームは、低量放射線ががんに関する遺伝子的な変化でよく知られているp53の遺伝子突然変異のある細胞の数を増やすことを発見しました。しかし、放射線照射前にマウスに抗酸化物質を投与すれば、健康な細胞の増殖が促進されてp53変異細胞を打ち負かして置きかわりました。

本日(7月18日)にCell Stem Cell 誌に発表されたこの研究結果は、低量放射線は健康な組織でがんになりやすい細胞の増殖を促進することを示しました。研究者は放射線の安全性を評価する際に(医者や患者ご自身に)このリスクを考慮すべきであることを推奨しています。この研究はまた、正常な細胞を強くしてがんになりそうな細胞を打ち負かしてなくしてしまえばがんの成長のリスクを減らすための害のない予防策を開発できる可能性を提供します。

日々私たちは土壌や岩石の自然放射線や、CTスキャンやX線といった大切な医療処置など様々な電離放射線(α線, β線, γ線, X線, 陽子線, 重粒子線など)にさらされています。

医療用画像撮影からの被曝のような低量放射線は、DNA損傷はほとんどなく、長期的な健康の影響は明らかに最小限なので、安全ということになっています。これまで低量放射線にさらされることによるDNA損傷以外の影響は明らかにされておらず、低量放射線の本当のリスクを知ることは困難でした。

研究者は以前、皮膚のような通常の組織は変異細胞が健康な細胞と場を奪い合う戦場であることを示しました。私たちはみんな 健康な組織に、p53変異を持つものも含めてがんになりそうな変異細胞を持っていて、加齢とともに数は増えるけれどもほとんどがんを形成するには至りません。

低線量放射線は初期がん細胞の割合を増やす

この新しい研究で、低量放射線が食道でがん化しそうな変異細胞に有利に影響することを示しています。サンガー研究所と共同研究者らは、CTスキャン3~4回分の線量に相当する50ミリグレイ(50mSvに近い)の放射線をマウスに照射しました。その結果、p53変異細胞は増えて広がり正常細胞を打ち負かしました(正常細胞より優先的に増えた)。

ウェルカム・サンガー研究所の第一著者のデビッド (David Fernandez-Antoran)博士は次のように述べています。「私たちの体は“クローンゲーム” の集まりのようなものです(正常細胞と変異細胞の絶え間ない戦いなのです)。CTスキャン3回分ほどの低い線量でさえ、がん化しそうな変異細胞に有利に影響することを示しています。注意を向けるべき放射線の影響として、もう1つのがん化する可能性のあるリスクを今回発見しました。」

初期のがん細胞を打ち負かす抗酸化物質

抗酸化物質NACの構造(出典:PubChem & Wikimedia Commons, by User:Fuse809, CC 表示-継承 3.0, リンク


それから研究者は同量の放射線にさらされる前に市販の抗酸化物質であるN-アセチルシステイン(NAC)をマウスに投与しました。チームは抗酸化物質は正常細胞がp53変異細胞を打ち負かして根絶するために必要な強さを正常細胞に与えることを発見しました。

抗酸化物質を与えても放射線がなければ正常細胞は初期のがん細胞を排除できない

しかし、抗酸化物質のみで放射線の照射なしでは、正常細胞が変異クローンと戦う手助けをしませんでした。

ウェルカム・サンガー研究所の論文執筆者の一人である村井かすみ博士は次のように述べています。「マウスを低量放射線にさらす前に抗酸化物質を与えると、正常細胞に食道で変異細胞と戦い、根絶させるためのさらなる「力」を与えました。

しかし、この治療が他の組織で効果があるかわかりません(他の組織ではがん化しそうな細胞をより強くするかもしれません)。分かっているのは、他の研究によると抗酸化物質だけの長期使用はがん予防には効果的ではないことです。」

ケンブリッジ大学ウェルカム・サンガー研究所とMRCがんユニットの主幹であるフィル・ジョーンズ教授は次のように述べています。「CTスキャンやX線などの放射線を用いる医療画像検査は、リスクが非常に低く、低くて測定が難しいほどです。この研究は低線量放射線の影響とそれが及ぼすかもしれないリスクについてより理解するのに役立っています。人々への影響を理解するためにはより多くの研究が必要です。」

チームはこの研究はがんを予防する治療につながることも示唆しています。健康な細胞をより元気にさせることで、患者に有害な副作用を与えずにがん化しそうな細胞を自然に排除します。

ーーー 翻訳ここまで ーーー


引用ニュース & 原著論文

🔵 英語ニュース:Low doses of radiation promote cancer-capable cells ()Jul 18, 2019

🔵 原著論(オープンアクセス:全文が無料でご覧になれます)文 :  Outcompeting p53-Mutant Cells in the Normal Esophagus by Redox Manipulation.(Cell Stem Cell , 2019 )
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Seigoの追記

この論文のまとめ

原著論文の情報も合わせて簡単に要点をまとめますと・・・

① 老化するにつれて(食道上皮などの)正常組織でp53変異細胞の割合が増す(自然現象として)。

② 3回のCTスキャンの被曝量に相当する低線量の放射線照射〔50ミリグレイ(50mSv)〕によってp53変異細胞は正常細胞より早く増え、その領域を増す(→ 将来がん化する可能性が増える結果に)〔この現象はマウスで観察されたもので、人でこれと同じ現象が起きるかはまだ調べられていない〕

③ 抗酸化物質(抗酸化サプリのNACなど)の摂取で、低線量放射線により正常細胞が活性化してp53変異細胞が激減した。(ホルミシス*効果と呼ぶ? 論文で言及なし。)

④ 抗酸化物質を与えただけでは(低線量放射線なし)p53変異細胞を減らす活性は認められなかった。


※ ホルミシスとは、あるものが大量に用いられた場合は有害であるが、低濃度あるいは微量に用いられれば逆に有益な作用を果たす現象のことをいいます。

また原著論文内のDiscussionにはこんなことが書いてありました。

抗酸化物質はヒトのがん予防研究で効果がないことが証明されているだけでなく、全ての病気において死亡率を増加させる可能性があります(参考文献 No.2)”

引用されたNo.2の論文にはベータカロチンとビタミンEなどの抗酸化物質を(毎日)摂ると、死亡率がむしろ増加する結果となったと書いてあります。

ただ抗酸化物質を摂るだけではあまり意味が無いばかりでなく、むしろ死亡率を上げるというデータもあるのです。

Seigoの抗酸化物質の摂り方

⭐️  私は健康診断や飛行場でのボディースキャンなどX線検査を受けなくてはいけないときには、直前に抗酸化物質サプリを摂っています。放射線被曝により活性酸素の発生を防いでDNAの切断を減らすのが目的ですが、上記の論文を読みますと初期のがん細胞も除去してくれるようですね。これはむしろ、X線検査は体のお掃除を促してくれるお得なこととして考え直した方がいいかもしれません 😄

⭐️ 正し直前に抗酸化物質サプリを摂るのを忘れると、初期がん細胞は増える可能性があるということですのでお気をつけ下さい。

※ 論文中に使われた抗酸化物質NACは、市販のサプリとして売っています。品質の良いさサプリを取りそろえている米国のiHerb(アイハーブ)ストアのリンクを以下に貼っておきます。


NAC 600mg, Now Foods, 約1210円
【iHerb】


ホルミシス効果が有名なジャーナルに出るのは珍しい

ホルミシス効果の論文は1990年代に数多く出されましたが、いずれもマイナーなジャーナルに出版されただけで、あまり報道されませんでした。日本人も玉川温泉の効果くらいはご存知かも知れませんが、それ以外はあまり知られていません(日本の研究者もホルミシス効果の研究を一時期はたくさんしておりましたが・・・)。

今回、 Cell Stem Cell誌のような有名なジャーナルでホルミシス効果の論文を取り扱うのは珍しいことです(論文の題名としてホルミシス効果を言及していないので気づく人は少ないかもしれませんが)。これを良い契機として、もっとホルミシス効果の研究が増えて、放射線の正しい知識が世に広まることを期待しています 😄


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