休んでいる免疫細胞を活性化させると多発性硬化症が改善する!? (2019年nature誌)

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多発性硬化症とは、中枢神経(脳や脊髄、視神経など)が侵される難病で、免疫細胞が自分の神経組織を攻撃してしまう自己免疫疾患の一種です。

休んでいるT細胞に、ある50億種類の中から選び出したペプチドを加えると活性化できることがわかり、そしてなんとその活性化したT細胞が多発性硬化症の症状を軽減することが発見され Nature 誌に発表されました。

この研究はスタンフォード大学のチームが発見し、大学のサイトにプレリリースされました。今回はそのレビュー記事を翻訳しましたのでご紹介します。(翻訳のプロではないので読みづらかったらすみません m(_ _)m )

多発性硬化症のマウスモデルにおいて防御を忘れた免疫細胞

スタンフォード大学の研究者は、多発性硬化症と類似したマウスにおける疾患の重症度を軽減する免疫細胞を特定しました。 これらの細胞は、自己免疫疾患の治療に将来役立つ治療法になる可能性があります。

スタンフォード大学医学部の研究者による新しい研究によると、これまであまり注目されてこなかった免疫細胞のクラスが、自己免疫疾患を引き起こす反応を減少させる可能性があります。これらの保護的な細胞を刺激することで、多発性硬化症やセリアック病など、免疫系が身体自体の組織を攻撃する疾患の新しい治療法につながる可能性があります。

Nature 誌で8月7日に発表されるこの研究では、研究者は多発性硬化症のモデルマウスの血液中の免疫細胞を追跡しました。彼らは、感染細胞やがん細胞を殺すことが一般的に知られているCD8 T細胞の増加を発見しました。驚いたことに、これらのCD8 T細胞によって認識されるペプチドをマウスに注射すると、疾患の重症度が低下し、疾患を引き起こす免疫細胞が死滅しました。

研究は主にマウスを用いて行われましたが、研究者たちは、主要な発見の1つである単一細胞由来のCD8 T細胞の増加が、多発性硬化症の患者の細胞でも当てはまることを示しました。

この結果は、炎症性免疫細胞と抑制性免疫細胞がシーソー上の子供のように互いにバランスしていることを示唆しています。自己免疫疾患が起きているとき、抑制性CD8 T細胞を選択的に活性化すると、そのバランスの回復に役立つ可能性がある、と微生物学・免疫学教授でHoward Hughes医学研究所研究員の、上級著者Mark Davis博士は述べています。

「このようなことがヒトの自己免疫疾患で起こっていると、私たちは確信しています。今まで誰も気づいていなかったシステムが存在しておりCD8 T細胞の一部のクラスが、その抑制機能を担っています。これらの細胞を動員して自己免疫の患者でより効果的に機能させることができれば、多発性硬化症などの疾患の新しい治療法が得られるでしょう」

T細胞クローンの攻撃

NIHによると、2350万人のアメリカ人に自己免疫疾患を引き起こしているのがどの分子なのか、ほとんどの場合わかっていません。

多発性硬化症も例外ではありませんが、マウスに、ミエリンオリゴデンドロサイト糖タンパク質(MOG)と呼ばれるタンパク質の小さな塊やペプチドを注入することにより、同様の疾患を引き起こせることがわかっています。実験的自己免疫性脳脊髄炎と呼ばれるこの病気のマウスは、多発性硬化症の患者のように麻痺を発症します。

研究者は、この病気のマウスモデルを使用して、自己免疫疾患においてさまざまな免疫細胞が何をしているかを調べました。彼らは、MOGを注入したマウスのさまざまなクラスの免疫細胞の量を追跡しました。

その結果、T細胞の数が波のように増減しており、さながら、背後から全体的な規模と戦略を指揮する将軍のように振る舞っていることを見出しました。DNAシーケンスにより、これらの波はそれぞれ同一の細胞のグループで構成されている、という重要な事実が明らかになりました。

上級研究員のNaresha Saligrama博士 (PhD) は、次のように述べています。

「T細胞が病原体または抗原に遭遇すると、病原体の一部を認識する単一細胞が分裂し、自身の多くのコピーを生成します。これは個別の細胞集団が応答していることを示唆しています」

では、これらのT細胞は何に反応しているのでしょうか?最も可能性があるMOGが最初にテストされ、MOG由来の350のペプチドを細胞にさらしました。しかし、一部のT細胞が増殖したものの、ペプチドのいずれにも応答しなかったCD8 T細胞のグループが存在しました。

そこで、もっと広い範囲のペプチドを試すことになり、研究者らはおよそ50億種類ものペプチドをテストしました。彼らは、酵母ディスプレイと呼ばれる分子技術を使用して、各ペプチドを保持する個々の酵母菌アレイを作製しました。

「T細胞が認識しているものを推測したり仮説を立てるのではなく、病気の進行に沿いつつ、何に反応しているのか?と、彼らに問いかける。「T細胞のクラウドソーシング法」です」とDavis博士は述べています。

タイタニックの復活

その結果、疾患に関与するCD8 T細胞によって認識される2つのペプチドを発見しました。これらのペプチドの役割を理解するために、彼らはMOGより前、後、または同時にマウスにそれらを注射しました。CD8 T細胞は主にがん細胞および感染細胞を殺すことで知られているため、科学者はこれらの細胞を活性化すると病気が悪化すると予想していました。

ところが、予想に反し、2つのペプチドを投与することによるCD8 T細胞の活性化は、マウスの疾患を減少または予防することに働いたのです。

驚くべき発見により、研究者たちは1970年代に最初に提案されたアイデア、すなわち、一部のCD8 T細胞は免疫抑制性である、という考えを見直すことを余儀なくされました。当初 関心を集め先見性のある発見であった、免疫抑制性CD8 T細胞という概念は、その後の実験データにより埋もれてしまっていたのです。

Davis博士は「免疫抑制性CD8 T細胞は、クルーズ産業におけるタイタニック号のようなものです」と話しています。

Davis博士らは、これらのペプチド活性化CD8 T細胞が、病気の原因となるT細胞と共に培養すると、細胞膜に穴を開けることによって殺すことを発見しました。CD8 T細胞は、免疫抑制に関連する表面タンパク質でコーティングされており、これらの細胞が実際に免疫抑制性CD8 T細胞であることの証明となりました。

ヒトの細胞ではどうか?

マウスでの結果が、ヒトでも同様かを判断するために、研究者らは多発性硬化症患者と健康な人の血液からCD8 T細胞を分離しました。その結果、類似の疾患を持つマウスと同様、多発性硬化症患者には、同一種類のCD8 T細胞の大きな集団を持つ傾向があることを発見しました。 多発性硬化症のCD8 T細胞が、何かに反応している兆候であり、これらの細胞が認識しているものが何か、それらのいくつかが抑制性であるかどうかを、判断する研究が進められています。

また、免疫抑制性CD8 T細胞が、他の自己免疫疾患に関与しているかどうかを調べる予定です。セリアック病でも同様のメカニズムが働いている可能性があることが示唆されています。これらの取り組みは、自己免疫疾患の仕組みに新たな光を当て、新しい治療標的を発見する可能性を秘めています。

「T細胞のクラウドソーシング法は、これまでの方法と根本的に異なる疾患の研究法です。このプロジェクトはこのアプローチだけでなく、新しいメカニズムを発見することにも役立つでしょう」とDavis博士は述べています。

ーーー 翻訳ここまで ーーー


引用ニュース & 原著論文

🔵 英語ニュース:Forgotten immune cells protective in mouse model of multiple sclerosis

🔵 原著論文: Opposing T cell responses in experimental autoimmune encephalomyelitis. (Nature, 2019)

Seigoの追記

今まであまり注目されていなかったT細胞のある集団(CD8という受容体を発現しているT細胞)は、多発性硬化症のモデルマウスではオフの状態ですが、あるペプチドを注射して活性化させると、多発性硬化症が軽くなり、疾患を引き起こす免疫細胞(CD4 T細胞など)が死滅したそうです。

この現象がヒトの多発性硬化症の患者でもあるかどうか調べてみたところ、やはり活性化してないCD8 T細胞が存在していて、それが同一の祖先を持つグループとして存在しているということでした(つまりある物質に反応して増えている可能性がある)。

このような活性のないあるCD8 T細胞のグループを活性化(特定のペプチドで)できれば、ヒトの多発性硬化症を治療できる可能性がでてくるかもしれないという希望の持てる研究結果でした。

この現象はグルテンをアレルギーとしてもつセリアック病にも同じようなアプローチで治療できる可能性があると研究者は期待をしています。

多発性硬化症の関する書籍

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