腸内細菌が分泌するニコチンアミドでALSが改善することが判明! (2019年7月Nature誌)

ニュース/レビュー

腸内細菌が分泌するニコチンアミドでALSが改善したというニュースが、科学のトップジャーナル「ネイチャー (Nature)」誌に発表されました!

ただこれは人ではなくマウス(ネズミ)を使った研究です。

この研究は米国のワイツマン科学研究所が行い、そのプレスリリース(英文)が発表されました。今回はそれを翻訳しましたのでご紹介します。(翻訳のプロではないので読みづらかったらすみません

腸内細菌はALSの進行に影響?

研究者らは患者の腸内で産生が不十分な可能性がある分子を単離しました。

ワイツマン科学研究所(Weizmann Institute of Science)の研究者らは、腸内微生物(総称して腸内微生物叢、腸内フローラ)が、Lou Gehrig病としても知られる筋萎縮性側索硬化症(ALS)の経過に影響を及ぼし得ることをマウスで示しました。本日Nature 誌で報告されているように、マウスがある種の腸内微生物またはこれらの微生物から分泌される物質を投与すると、ALS様疾患の進行は遅くなりました。最初の研究結果は、腸内細菌の調節機能に関する知見がヒトのALS患者に適用できるかもしれないと示唆しています。

「私たちの長年の科学的・医学的な目標は、脳が魅力的な新分野であり、腸内微生物が人の健康と病気に与える影響を解明することです」と免疫学科のEran Elinav教授はいいます。

彼のチームはコンピューターサイエンスと応用数学科のEran Segal教授と共同で研究を行いました。 「腸内細菌が脳の機能と疾患に影響を与えるという証拠が増えていることを考えると、我々はALSにおいて可能性のある役割を研究したいと考えていました。」Eran BlacherとStavros Bashiardes、Dr. Hagit ShapiroらElinav研究室の博士研究員によって行われました。彼らはEran Segal研究室のDaphna Rothschild博士、およびHadassah Medical Centerの運動ニューロン疾患クリニックの責任者であるMarc Gotkine博士、Weizmannや他の研究者と共同研究を行いました。

科学者達は一連の実験でトランスジェニックマウスのALS様疾患の症状がかなりの腸内細菌を一掃する広域スペクトルの抗生物質を与えられた後に悪化したことを実証しました。さらに科学者らはALSを起こしやすいマウスを無菌状態で成長させることは(定義上、マウスには独自の腸内細菌がない)非常に困難であることを見出しました。これらの結果をまとめると、遺伝的にALSに感受性のあるマウスの腸内細菌の変化と疾患の進行との関連の可能性を示唆していました。

次に高度な計算方法で、ALSを起こしやすいマウスの腸内細菌の構成と機能を通常のマウスと比較して特徴付けました。

彼らは疾患を進行しているのとマウスが明白なALSを発症する前とで、ALSを起こしやすいマウスで変化した11の微生物株を同定しました。

科学者がこれらの微生物株を単離し、抗生物質治療後にALSを起こしやすいマウスにそれらを1つずつ ー プロバイオティック様サプリメントとして ー 与えると、これらの株のいくつかはALS様疾患に明らかに悪い影響を与えました。しかし、1つの系統、Akkermansia muciniphila(以後アッカーマンシア菌と呼ぶ)は、マウスにおける疾患の進行を有意に遅らせ、生存期間を延ばしました。

アッカーマンシア菌がその効果を生み出すメカニズムを明らかにするために、腸の微生物によって分泌される何千もの小分子を調べました。 ALSを起こしやすいマウスの血中および脳脊髄液中でのレベルは、抗生物質治療後に減少し、これらのマウスにアッカーマンシア菌を補給すると増加し、この分子を分泌することができました。 ニコチンアミド (NAM; ビタミンB3のアミド型)が実際にALSの進行を妨げる可能性がある腸内細菌が分泌する分子であることを確認するために、科学者らは継続的にALSを起こしやすいマウスにニコチンアミドを注入しました。 これらのマウスの臨床状態は著しく改善されました。 それらの脳における遺伝子発現の詳細な研究は、ニコチンアミドALSマウスの運動ニューロンの機能を改善することを示唆しました。

ある菌はマウスの疾患進行を有意に遅らせ、生存期間を延長しました

ALS患者にニコチンアミドの低下が認められる

最後に、研究者らは37人のヒトALS患者の微生物フローラと代謝産物のプロファイルを調べ、それらを同じ世帯を共有する家族のものと比較しました。詳細なゲノム解析は、ALS患者の腸内細菌が、健康な家族のものと組成および機能的特徴において異なることを示唆しました。特に、ニコチンアミド合成に関与する多数の微生物遺伝子がALS患者において有意に抑制されていました。血中の何千もの小分子の分析もまた、対照と比較してALS患者において明確なパターンを明らかにしました。ここでも、ニコチンアミド合成に関与する中間分子の多くがALS患者の血液中で変化していました。ニコチンアミド自体のレベルをテストすると、コントロールと比べ60人のヒトALS患者の血液と脳の両方でこれらが著しく減少することを発見しました。さらに、患者におけるニコチンアミドレベルの低下と筋力低下の程度との間に相関関係がありました。

「これらの調査結果は、ALSに対する腸内細菌の影響の可能性を包括的に理解するための第一歩にすぎません。しかし将来的には、ALSの新しい治療法を開発するために、腸内細菌を変更するさまざまな手段が利用される可能性があることを示唆しています」とElinav教授は言いました。 

引用ニュース & 原著論文

🔵 英語ニュース:Gut microbes may affect the course of ALS)22.07.2019

🔵 原著論文 : Potential roles of gut microbiome & metabolites in modulation of murine ALS. (Nature, 22 July 2019)

 

Seigoの追記

この研究にはALSに関する5つの要望な情報が含まれておりましたので、ポイントを列挙します。

Nature 論文のポイント

🔵 ALSの患者さんにはニコチンアミド量が血液と脳の両方で減少していた。

🔵 ニコチンアミド量が低いほど筋力低下が認められた。

🔵 ニコチンアミドアッカーマンシア菌Akkermansia muciniphila)が分泌していた。

🔵 ALSのモデルマウスにアッカーマンシア菌を与えるとALSの進行を遅らせることができた。

🔵 ALSマウスにニコチンアミドを投与しても臨床状態は改善され、運動ニューロンの機能も良くなった。

人の腸内フローラでアッカーマンシア菌が増減しているかはこれから研究するそうです。

※ この研究で使われたALSモデルマウスはSOD1遺伝子に変異があるものです。この変異はALS患者さんの多くて約2割しか持っていないので、すべてのALS患者さんに共通の事ではない可能性があります。

また今回は11の菌がALSマウスに特有の菌腫であることが分かっており、上記のレビューではアッカーマンシア菌を投与するとALSが改善しましたが、原著論文のサマリーには2つの菌腫を投与するとALSが悪化したという記述も見られましたのでその菌の名前を記しておきます。

ALSを悪化させた2つの菌 (実験動物の結果)

🔴 Ruminococcus torques(草食動物の胃などに存在するグラム陽性菌の一種。セルロース分解能力を持つ)

🔴 Parabacteroides distasonis(グラム陰性菌であり、絶対嫌気性。棒状で胞子非形成性および非運動性細菌)


ニコチンアミドとは

ニコチンアミドの構造(出典:DHC)By Ben Mills – Public Domain, Link


ニコチンアミド(nicotinamide: Nam)は、ニコチン酸(ナイアシン/ビタミンB3)のアミドである。ニコチンアミドは水溶性ビタミンで、ビタミンB群の一つである。ナイアシンアミド(niacinamide)、ニコチン酸アミド(nicotinic acid amide)とも呼ばれる。欠乏症でペラグラとなる[1]。外用薬の成分としてニキビ(尋常性ざ瘡)の治療や、美容目的で化粧品に配合される[2]。日本で医薬部外品の化粧品としてシワ改善の有効成分(リンクルナイアシン)[3]、美白の有効成分(ニコチン酸アミド)として承認されている[4]

細胞では、ナイアシンはNADとNADPから組み込まれるが、ニコチンアミドとニコチン酸のその経路は非常に似ている。NAD+とNADP+は、酵素的酸化還元反応において広く用いられる補酵素である[6]。(出典:ウィキペディア

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