ついにアミロイドβにプリオンのような感染活性があることが判明!? (2019年最新研究)

ニュース/レビュー

ついにアルツハイマー病で生じるアミロイドβやタウタンパク質に、プリオンのような感染性があることがわかりました。若い人ほど感染は早く、命を落とす可能性が高いとのことです。

カリフォルニア大学サンフランシスコ校(UCSF)の研究者がその最新研究を論文に発表し、またそのレビュー記事(英文)を大学サイトにリリースしました。今回はそのレビュー記事を翻訳しましたのでご紹介します。(翻訳のプロではないので読みづらかったらすみません m(_ _)m )

ニュースタイトル「アルツハイマー病はダブルプリオン障害」

死後の脳サンプルから自己増殖性アミロイドおよびタウプリオンが検出。若年死亡患者で最高レベル。

新しいカリフォルニア大学サンフランシスコ校(UCSF)の研究によると、アルツハイマー病の病理学上の主要な2つのタンパク質がプリオンのように振る舞うことがわかりました。プリオンは、異常な形状のタンパク質で、他の正常な形状のタンパク質を異常な形状に変えてしまう性質を持ち、さらに感染のように組織全体に広がります。

研究者らは、新しい手法を用いることで、75人のアルツハイマー病患者の死後脳組織中のタンパク質、アミロイドベータ(Aβ)およびタウ特定の自己増殖性プリオン型を検出・測定することを可能にしました。驚くべきことに、ヒト脳サンプル中でのこれらのプリオンが多く存在することと 疾患が早発生 (若い時に病状が現れること)であること、および 死亡年齢が若い ことに、強い関連性がありました。

アルツハイマー病は現在、認知機能低下および認知症を伴い、アミロイド斑およびタウ凝集が存在する病態と定義されています。しかし、これらの不活性タンパク質を除去して病気を治療しようという試みは成功していません。2019年5月1日に Science Translational Medicine 誌に発表された、活性型Aβとタウプリオンがこの疾患を引き起こしているという新たな証拠から、研究者はプリオンに直接焦点を当てた新しい治療法へと舵を取りました。

UCSF神経変性疾患研究所のディレクターで、今回の研究の主任著者であるStanley Prusiner医師は、次のように述べています。
Aβとタウはどちらもプリオンであり、アルツハイマー病はこれら2つの異常タンパク質が、一緒になって脳を破壊するダブルプリオン障害であることは、疑いの余地がないものと考えています。プリオンのレベルもまた患者の寿命に関連しているため、疾患の治療法の今後の開発方針を考え直さなければならないでしょう。アルツハイマー病研究には抜本的な変化が必要であり、それこそ本研究で行っていることです。この論文は、アルツハイマー病研究の大きな変化を促進するかもしれません」

プリオンとは?

ウィキペディア「プリオン」より:顕微鏡で確認できるほどの微細な「穴」は、プリオンが感染した組織切片に見られる特徴である。これが「スポンジ状」の構造を作り出す。(出典:By Dr. Al Jenny, APHIS, Link


プリオンは、そのタンパク質の正常なコピーを、同じ自己増殖型のミスフォールド形状にすることによって感染のように異常な形状のタンパク質を増やしてしまう、ミスフォールド型のタンパク質です。最初に発見されたプリオンタンパク質PrPは、PrPプリオンで汚染された肉および骨粉の消費を通じて広がった Creutzfeldt Jakob病(CJD)および海綿状ウシ脳症(別名Mad Cow Disease)の原因として、1980年代にPrusinerによって同定されました。細菌やウイルスなどの、生物の侵入ではなく「感染性タンパク質」を介して病気が人々に感染することが示されたのはこれが初めてで、この発見によりPrusinerは1997年にノーベル賞を受賞しました。

Prusinerらは長年、自己増殖性プリオンとして作用することができるタンパク質がPrP以外にもあり、ミスフォールドした他の種類のプリオンタンパク質の進行性の毒性蓄積が、他の神経変性疾患の原因になり得るのではないか、と考えていました。

例えば、アルツハイマー病は、アミロイド斑およびタウの蓄積によって定義されますが、それらは徐々に脳全体に破壊を広げます。過去10年間で、UCSFやその他の研究室において、アミロイド斑およびタウの蓄積が、病気の脳から健康な脳組織へ、PrPとよく似ていますがかなりゆっくりと感染し得ることが分かり始めています。

多くの科学者は、Aβとタウが「プリオンのように」伝播することは認めても、それら自身が自己増殖型プリオンである、と認めることを躊躇してきました。高度にコントロールされた実験レベルでしか、感染性が見られないと考えられていたのです。

しかし最近の報告では、ヒトの脳組織由来の成長ホルモン治療を受けた患者、あるいは脳の保護硬膜の移植を受けた患者が、遺伝性疾患が見られていなかったのに、中年期以降にAβ斑を生じるようになった例が、少数ながら存在しています。Prusinerは、病原性の高いPrPに比べ伝播力が低いものの、Aβもタウもプリオンであると主張しています。

Prusinerはこの議論の際、神経科学者Bernard Katzによる1969年の講演における「専門用語を使うくらいなら、隣のヤツの歯ブラシを使った方がマシ、と考える学者もいるみたいだからね」というコメントを好んで引用しています。

Aβおよびタウのプリオン活性をバイオアッセイで検出(ヒトの死後の脳サンプル)

sungmin choによるPixabayからの画像

イメージ画像(出典:sungmin choによるPixabayからの画像)


今回の研究では、最近開発された2つの方法を組み合わせて、ヒト組織サンプル中のプリオンを迅速に測定しました。一つはPrusinerラボで開発された新しいAβ検出システム、もう一つはタウプリオンアッセイで、現在UTサウスウェストメディカルセンターのアルツハイマー病および神経変性疾患センター所長であり、以前UCSFに勤めていたMarc Diamond博士によって開発された方法です。

これまで行われていたモデル動物での実験は、Aβおよびタウのプリオンのゆっくりした伝播を検出するまで数ヶ月を要しましたが、今回の細胞を用いたアッセイ方法では、わずか3日で結果が出るため、死後脳からの抽出し処理したサンプルを用いてAβ・タウ両者のプリオンのレベルを効果的に定量することを、初めて可能にしました。今回の研究では、アメリカ合衆国、ヨーロッパ、オーストラリアで保管されていた、アルツハイマー病とそれ以外の神経変性で亡くなった100人以上の脳組織に対して、この技術を用いた測定が行われました。

アルツハイマー病患者からのサンプルを、他の疾患で死亡した人々と比較したアッセイでは、プリオン活性は各疾患で確立されているそれぞれのタンパク質病理と正確に一致しました。75のアルツハイマー病の脳では、Aβとタウプリオンの両方の活性が上昇していたのに対し、脳アミロイド血管症(CAA)患者からの11の試料においてはAβプリオンのみが、タウ関連前頭側頭葉変性(FTLD)患者からの10の試料においては、​​タウプリオンのみが検出されました。

最近開発された、α-シヌクレインプリオンのアッセイでは、シヌクレイン関連変性障害多系統萎縮症(MSA)の患者由来の7試料からのみ、これらの感染性粒子が見出された。

医薬品化学教授で、UCSF心臓血管研究所のメンバーであるタンパク質化学者のWilliam DeGrado博士は、この論文の共著者として、本研究の実験デザインと解析を行いました。
「これらのアッセイは大きな変化をもたらします。これまでのアルツハイマー病研究は、ミスフォールドや死んだタンパク質の凝集による、付随的な損傷を観察するところでつまずいていました。今、疾患と相関があるのは、剖検時に観察されるタンパク質の凝集や斑の量ではなく、プリオンの活性だということが明らかになりました。したがって、効果的な治療法や診断法の開発のためには、凝集や斑を構成するタンパク質量ではなくて、プリオンとしての活性をターゲットにするべきなのです」

アルツハイマー病患者の長寿に関連するAβおよびタウプリオン活性

イメージ画像(出典:Sasin TipchaiによるPixabayからの画像)


本研究の最も注目すべき点は、遺伝性アルツハイマー病によって若くして亡くなった患者の脳の自己増殖性プリオン型タウとAβが、 最も感染しやすい という発見かもしれません。老年で亡くなった患者の脳からのタウ、Aβは、もっと弱い感染能しか示しません。

特にタウは、アルツハイマー病の脳内では年齢とともに増加することが知られており、その蓄積度合いを比較すると、年齢とともにタウのプリオン型の相対存在量が指数関数的に著しく減少することを研究者らは見出しました。

研究者らはまた、タウプリオンと患者の死亡時年齢との間に非常に強い相関を見出しました。タウ全体量とのタウプリオン相対量で比較すると、40歳で死亡した患者の脳内のタウプリオンの量は、90歳で死亡した患者よりも平均32倍高いものでした。

著者の一人であるUCSF Memory and Aging CenterのWilliam Seeley神経学教授は、神経変性研究の第一人者であり、本研究に用いられた患者組織を保管しているUCSF神経変性疾患脳バンクを統括しています。
「もう一年以上も前のことですが、このデータを初めて見た時の事を、どんな時間帯にどこに座っていたか、今も覚えています。ヒトの生物学的データにおけるこのような相関関係は、これまでほとんど見たことがありません。現在の課題は、この相関関係が何を意味するのかを見つけることです」

この研究は、今後の研究で取り組まれる必要があるであろういくつかの疑問を投げかけています。一つは「患者毎にアルツハイマー病が異なる速度で進行する」という長年の謎をプリオン感染性の違いで説明できるか、というものです。また、若年患者の脳サンプル中の高いプリオンレベルが疾患の早期発症またはその進行の速さに関連しているかどうか、年配の脳のプリオンレベルが低いのは「感染性の少ない」プリオン変異体を意味するのか、あるいはミスフォールドタンパク質を除去する能力があったためなのか、という疑問があります。

Aβおよびタウのプリオン型がアルツハイマー病において特異的な役割を果たすという結論はまた、患者の脳におけるアミロイド斑およびタウ凝集を数えることでは捉えることのできない事を意味しており、アルツハイマーの診断、臨床試験デザインに対する現在のアプローチに対する疑問を投げかけています。著者らは、新しいアッセイが、測定可能なプリオンタンパク質を標的とする治療法を開発することへ、新たな興味をもたらす事を願っていると述べています。

この研究の主執筆者の一人であるCarlo Condello博士は、次のように述べています。
「多くの、一見有望なアルツハイマー病治療法が臨床試験に失敗しているため、間違ったタンパク質を標的にしていると推測する人もいます。しかし、実際に病気を引き起こす、これらの独特のプリオン型タンパク質に対する薬剤を設計していなかったためだとしたら、どうでしょうか。Aβとタウのプリオン型を効果的に測定できるようになったので、プリオンの形成または拡散するのを防ぐ薬剤、また脳が損傷を受ける前にこれらのプリオンを除去できるような薬剤の開発に繋がって欲しいと思います」

引用ニュース&原著論文

🔵 英語ニュース:Alzheimer’s Disease is a ‘Double-Prion Disorder,’ Study Shows)May 1, 2019

🔵 原著論文 :Aβ and tau prion-like activities decline with longevity in the Alzheimer’s disease human brain, (Science Translational Medicine  01 May 2019:Vol. 11, Issue 490, eaat8462 )

Seigoの追記

プリオン活性のあるアミロイドβやタウタンパク質を若い人が持ってしまった場合、とても広がりやすいので早く命を落としてしまうようですね。

しかし高齢の方についてはあまりうまく説明できていないようで、不溶性タウタンパク質が蓄積しているにも関わらず、プリオン活性は少ないということでした(逆相関)。長生きの人はある一種の耐性があると(脳内の掃除する能力が高いと)すぐに命を落とさないようです。ここでもデトックスが大切となってくるわけです!

この研究発表を聞いて恐いのは、プリオン活性をもつアミロイドβやタウタンパク質というものがあるとすると、それは生物兵器になり得るのではないかと言うことです。プリオン活性のあるタンパク質を健常者に感染させれば、その人も簡単にアルツハイマー病になってしまうかもしれないんです。しかもそれは若い人ほど病の進行は早いのです。

プリオン活性を無くす薬剤や治療法の開発が早急に望まれます。

プリオンやアルツハイマー病の書籍

プリオンやアルツハイマー病のことをもっと知りたい方は代表的な書籍のリンクを下に貼っておきました。


関連記事一覧

  1. この記事へのコメントはありません。