新型コロナのRNA自体を切断する治療法が確立された!? Cell誌に発表 (スタンフォード大学研究チーム)

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スタンフォード大学のチームが新型コロナの遺伝子レベルでぶっ壊してしまうシステムを開発しました。あの Cell 誌に発表されました。

以下はスタンフォード大学のプレスリリース(英文)を要約し和訳したものです。

原著論文も全文が無料で読むことができる(オープンアクセス)ので記事下にリンクを貼っておきます。

新型コロナに遺伝子治療ってどうよ?

スタンフォード大学とバークレーラボの研究者は、CRISPRを使ったジーンターゲティングでCOVID-19の特定の遺伝子配列を分解することでウイルスを壊すことに成功しました。この成果は Cell 誌に掲載されました。

特徴
PAC-MANProphylactic Antiviral CRISPR in huMAN cells = huMAN (ヒト) 細胞における予防的抗ウイルスCRISPR)はヒト細胞への予防的抗ウイルスCRISPRで、ウイルスの特定の遺伝子配列にCRISPRのシステムで壊すなど変えてしまう技術です。
・今回lipitoidというカプセルにPAC-MANを入れて宿主細胞内に運び込み、細胞内でウイルスを約90%減少させることに成功

昨年からインフルエンザで研究していましたが、COVID-19パンデミックのニュースが出た1月にすべてが変わり、Qi助教のチームは新型コロナの治療の研究をしてみようということになりました。

3月下旬から、バークレーラボのMichael Connollyのグループと協力して、PAC-MANを患者の細胞に送るシステムを開発しました 。

すべてのCRISPRシステムと同様に、PAC-MANは酵素(ウイルスの遺伝子を分断する酵素Cas13)と、コロナウイルスの特定のヌクレオチド配列を壊すようにCas13に命令するガイドRNAで構成されています。PAC-MANはウイルスの遺伝子配列を認識すると、Cas13がそれを壊すことでコロナウイルスが宿主細胞で増えるのを防ぐことができます。

どうやってPAC-MANを細胞内に届けるかがポイント

イメージ画像(出典:Pete LinforthによるPixabayからの画像)


Qi助教はPAC-MANでCOVID-19療法を実現させるには、肺細胞に送る効果的な方法を見つけることだと述べました。SARS-CoV-2が肺に侵入すると、肺胞が炎症を起こし液で満たされて呼吸できなくなります。

しかしラボでその技術はないため、3月14日にデリバリーの専門知識のある研究者を見つけるために論文のプレプリントを発行したり、ツイートしました。

すると、Molecular Foundryでlipitoidsという合成分子に関するConnollyの研究を知りました。

 Lipitoidは、20年前にConnollyの師匠のRon Zuckermannによって最初に発見された「ペプトイド」という一種の合成ペプチド模倣物です。それ以来ConnollyとZuckermannは、リピトイドなどペプトイド送達分子の開発に取り組んできました。そして、Molecular Foundryのユーザーと協力し、リピトイドがDNAやRNAをさまざまな細胞株へ送り込めることを実証しました。

ウイルスくらいの大きさの幅10億分の1メートルの小さなナノ粒子のリピトイドは、カプセル化したヌクレオチドを送り込むことができます。

Qi助教は、CRISPRのCOVID-19療法をMoleculaar Foundryのリピトイド送達システムで実現したいということで、4月下旬、ヒト上皮性肺細胞で、DNAとRNAをリピトイド1に入れてテストしました。

リピトイドは非常によい結果を出し、コロナウイルスの標的の配列とPAC-MANをパッケージ化すると、液体の中で合成SARS-CoV-2の量を90%以上減らしました。

次は実際にSARS-CoV-2ウイルスに、動物モデルでPAC-MAN/リピトイドシステムをテストする予定です。ニューヨーク大学とカロリンスカ研究所(スウェーデン)の共同研究者が参加します。

成功すればSARS-CoV-2やその他のコロナウイルスのパックマン/リピトイド療法をさらに開発し、前臨床試験のための実験のスケールアップを検討したいと考えています。

「CRISPRターゲティングとリピトイドを組み合わせた方法は、COVID-19だけでなく、パンデミックの可能性があるウイルスによる疾患と戦うための非常に強力な戦略になる可能性があります」とConnolly氏は述べています。

Qiのプレプリントは最近査読され、Cell 誌に掲載された。「誰もが24時間体制で新しい解決法を考え出そうとしており、このような大変な時に専門知識を合わせて、コラボで新しいアイデアをテストすることは非常にやりがいがあります。」とQi助教は付け加えました。

スタンフォードチームの研究は、アメリカ国防高等研究計画局(DADF)によってサポートされています。

ーーー 要約ここまで ーーー


引用ニュース & 原著論文

🔵 プレスリリースScientists Aim Gene-Targeting Breakthrough Against COVID-19. ()June 4, 2020

🔵 原著論文(オープンアクセス無料で論文の全文を読めます♪ : Development of CRISPR as an Antiviral Strategy to Combat SARS-CoV-2 and Influenza.Cell , 2020 )PDF書類

 

Seigoの追記

ウイルスにはあるが人にはない遺伝子配列を認識して壊すということで、確実にウイルスだけを殺傷するというCRISPR(クリスパー)によるジーンターゲッティングは、とても安全な方法のようにみえます。(それが本当に特異的にウイルスのRNAだけを攻撃するものならば)

今回使われたCRISPRは、1本鎖RNAの標的配列部位を切断できるCas13dと組み合わせているところが新しいです。通常、CRISPRは2本鎖のDNAをターゲットにしますが、これは最近見つかったばかりのCas13dを使っており、それと新型コロナのRNAをターゲットにして成功したという報告です。

一方、アビガンやレムデシビルはRNAポリメラーゼに作用しますので、こちらは遺伝子ではなくタンパク質をターゲットにしていることになります。

この研究では今までのCRISPRの研究とは違ってどうやったら肺の細胞にそれを運ぶことができるかのチャレンジまで含まれており、それが上手くいく可能性が高いところが世界中の人々に期待を持たせているポイントです。リピトイド(Lipitoid)という細胞よりずっと小さなナノカプセルを利用して、その中にCRISPR一式を封入して肺の細胞に送り届けるというアイディアです。やり方は肺にスプレーするなどの方法を考えているのでしょうか?

上手くいけば非常に有望です。

新型コロナの遺伝子そのものをダイレクトに壊すCRISPRと、RNA複製酵素をターゲットにするアビガンなどの2種類のツールが将来ダブルで治療に使われれば相乗効果が期待できるかも知れません。心強いツールが早くりようできるといいですね!

もっと勉強したい方のために:CRISPRやゲノム編集に関する書籍

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