史上初めてヒト免疫系の包括的なDNA配列が解読される! (nature発表)

ニュース/レビュー

今回は人の免疫システムの解読についての研究の報告です。

Human Vaccines Project から最新研究がプレスリリース(英文)されましたので、その和訳をご紹介します。

ニュースタイトル「人の免疫システムを解読
」

Natureで発表されたHuman Vaccines Projectによる新しい研究では、史上初めてヒト免疫系の包括的配列決定を行いました。これはヒトゲノムよりも数十億倍も大きい規模になるものです。科学者たちは、広大で神秘的な免疫システムの重要な部分、すなわち血液中のB細胞受容体レパートリーをコードする遺伝子の配列を決定しました。

成人と幼児のB細胞受容体の配列を決定したところ、人口集団にまたがって提供できるワクチンや治療法を生み出す可能性のある新しい抗体標的を提供し得る、驚くべき共通部分が発見されました。あらゆる病気に対応し適応する人類の能力の遺伝的基盤の定義を探し当てる研究であり、長期間にわたる研究プロジェクトのイニシアチブとなるものです。

この研究の進歩は、生物学研究と強力な先端スーパーコンピューティングの融合によって可能になったものですが、バンダービルト大学メディカルセンターとサンディエゴスーパーコンピュータセンターの科学者の主導によるものです。ヒトゲノム計画は、ヒトゲノムの配列を決定し、新しいゲノミクスツールを開発しましたが、ヒト免疫システムの規模と複雑さには到底太刀打ちできませんでした。

2月13日の Nature 誌に発表された論文の主な著者の一人、ヴァンダービルト大学メディカルセンター James E. Crowe 医師はこう言います。

「ヒト免疫学およびワクチン開発の分野における継続的な課題は、通常の健康なヒト免疫系がどのようなものであるかについての包括的な参考データがないことでした。免疫システムは理論的にはあまりに大きいため、そのようなプロジェクトを行うことは不可能と考えられていたのです。しかし今回、各人のB細胞受容体レパートリーのサイズが予想外に小さいことがわかったため、多くの部分を決定することが可能であることが示されました

イメージ(出典:Arek SochaによるPixabayからの画像)


今回の研究では、適応免疫システムの中でも特に主要な決定要因と考えられている、抗体産生を担うB細胞受容体に注目しています。受容体は、様々な遺伝子部分をランダムに連結することで、クロノタイプと呼ばれる独自の塩基配列を構成します。このような仕組みで、少ない遺伝子の数でどんな新しい病原体に対しても応答できる免疫システムを可能にする、途方もない種類の受容体を発現させることを可能にしているのです。

3人の成人を対象に白血球除去療法を実施し、最大400億個の細胞をクローニングおよび配列解析を行い、B細胞受容体を構成する遺伝子セグメントの組み合わせを配列決定し、これまでにない厚みを持つシークエンスデータを取得しました。また、3人の乳児からの臍帯血を用い配列決定を行いました。従来は多数の個人について少数部分のデータを収集するのが一般的ですが、今回の方法は少数の個人の中で膨大な量のデータを収集する新しいアイディアです。

「個体間の抗体配列の重複は予想外に高いものでした。産まれたばかりの赤ちゃんと成人が、全く同じ抗体配列を有することさえあったのです」
このような共通性を理解することは、人口集団にまたがってより普遍的に機能するワクチンや治療法の標的となる抗体を特定するためのヒントになります。

大きな疑問の一つは、個人間で見られた共通の配列が、偶然の一致であるのか、それとも何か共通の生物的、または環境的要因によってもたらされたものなのか、ということでした。そこで研究者たちは合成によって作成したB細胞受容体レパートリーを解析を行いました。「その結果、実験的に観察された共通配列は、偶然によると予想されるものよりも有意に大きいものでした」とカリフォルニア大学サンディエゴ校スーパーコンピューターセンターのRobert Sinkovits博士は語っています。

免疫細胞(イメージの出典:allinonemovieによるPixabayからの画像


ヒトワクチン計画によって設立された独自のコンソーシアムの一環として、サンディエゴスーパーコンピュータセンターは、複数の数テラバイトのデータを処理するのに十分なスペックのコンピューターシステムを動員しました。プロジェクトの中心となる原則は、生物医学と高度コンピューティングの融合です。

「個々の研究室で一般に行えるものより、ずっと大きな規模での研究が、ヒトワクチン計画のおかげで可能になっています。しかも、通常では考えられない組み合わせのグループ同士での共同研究が行われています」

継続的な共同研究によって、この研究はますます広がりをみせています。適応免疫システムの他の領域であるT細胞レパートリーの配列決定や、超長寿者や各人種集団などの様々な遺伝子背景のデータの追加、データから更に意味を探り出すためのAI駆動アルゴリズムの適用、といったことです。どんな人口集団にも用いることができるより安全で高度に標的化されたワクチンや免疫療法の開発につながる、免疫系の共通の構成要素を調べ続けることが目標とされています。

ヒトワクチン計画CEOのWayne Koff博士は、次のように語っています。

「最近の技術の進歩により、人間の免疫システムの能力を利用してヒューマン・ヘルスを根本的に変えることができるという、これまでにない機会を手に入れつつあります。ヒトの免疫系を解読することは、癌からアルツハイマー病、パンデミック・インフルエンザまで、感染症や非感染性疾患の世界的な課題に取り組む上で中心的な役割を果たします。ヒトの免疫システムがどのように働くかを理解する今回の研究は、遺伝学・免疫モニタリング技術とAI・機械学習との相乗効果でもたらされる、次世代ヘルスプロダクトの基盤構築の重要な礎となるものです」

引用ニュース & 原著論文

🔵 英語ニュース:Decoding the human immune systemHuman Vaccines Project 

🔵 原著論文:High frequency of shared clonotypes in human B cell receptor repertoires (Nature, volume 566, pages398–402 (2019) )

免疫に関連した書籍

B細胞の遺伝子再構成を説明する講義ビデオ(YouTube)

inouebiology1さんの模式図付きの素晴らしいご説明です。

Seigoの追記

B細胞受容体の遺伝子組み換え部位の配列が解読され、natureに発表されました。

nature のサマリーを読むと「各個人の循環レパートリーが900万〜1700万のB細胞クロノタイプを含んでいた」と書いてありました。

一人の体だけでも、1000万種類を超えるB細胞受容体を用意して、外敵から身を守っているんだなと想像すると、改めて体ってスゴイなぁーっと感動してしまったニュースでした 😄

関連記事一覧

  1. この記事へのコメントはありません。