食事制限は自然免疫のレベル低下を通して長寿メカニズムが働く! (2019年米国研究)

ニュース/レビュー

今回は寿命の延長に免疫系が関係するという新しい証拠が発表されましたので取り上げてみました。

米国ジョスリン糖尿病センターのこの研究をプレスリリースしました。それを翻訳しましたのでここでご紹介します。

原著論文タイトル「食事制限は自然免疫系の代謝調節を通して寿命を延ばす

科学者たちは、カロリー制限が長寿命化につながることを何十年も前から知っています。慢性炎症は年齢とともに増加することも観察されています。しかし、この両者間の関係にも踏み込んだ研究は全くされていません。

しかし Cell Metabolism 誌に発表された新しい研究で、ジョスリン糖尿病センター(Joslin Diabetes Center)の研究員達はカロリーの制限免疫システムの制御に関連した長寿の新しいメカニズムを発見しました。

ジョスリンセンターの本共同究責任者、兼上級研究員、ハーバード大学医学部(Harvard Medical School)遺伝学教授である本研究の主幹、キースブラックウェル(Keith Blackwell)博士は「免疫活性の調節は食事制限の重要な側面です」として、「それは長寿の制御、つまり、寿命を延ばすための重要なのです。」

この研究でブラックウェル博士と彼のチームは、カロリーを制限するとp38と呼ばれる調節タンパク質の活性を低下させることから自然免疫レベルが低下し、連鎖反応効果を誘発して免疫反応を低下させることを発見しました。

自然免疫は体の警備員のようなもので、招かれざるバクテリアやウィルスに目を光らせています。自然免疫系が何かを発見すると、それは緊急免疫反応を活性化します。私たちは健康を維持するためにある程度、両方の種類の免疫を必要としますが、過度に活動的な先天性免疫システム — これは加齢とともに頻繁になる — が低グレードの炎症を絶え間なく引き起こし、無数の健康問題につながります。

「“当研究以前に” 人々は人間の対老化免疫に起こる変化に注目していましたが、免疫または免疫活動の変化が寿命の延長に関わること、または老化防止プログラムの一環として有益であることについては誰も注目していませんでした。」とブラックウェル博士は言います。

この研究は、小さな線虫 C. elegansを使用して行われました。これら線虫類に見られる最も基本的な遺伝子と規制のメカニズムは通常人間に存在するもののより単純なバージョンなので、それらを人間の老化や遺伝学、そして病気を研究するための良いモデルとなっています。

線虫(出典:Wikipedia Commons)


ブラックウェル博士と彼のチームは、カロリー制限期間中のタンパク質のレベルと遺伝子経路の作用を分析しました。彼らはp38タンパク質によって調節されていた特定の遺伝子経路に照準を合わせ研究することができました。彼らは、p38が完全に不活性になるとカロリー制限が利かなくなり、自然免疫に影響を及ぼさないことを見出しました。それが活性があっても正常よりも低いレベルだと先天性免疫応答を最適なレベルに低下させるように遺伝経路を作動しました。

「それは我々が発見した最も驚くべきことでした。それは重要でしたがその遺伝子経路は下方制御されていました」とブラックウェル博士は言います。

この免疫調節応答が細菌ではなく栄養素によって活性化されたことも驚くべきことでした。これは相次いでいる新陳代謝が免疫システムと関連することの追加的証拠に加えられるものです。

ラックウェル博士は「これは今や、哺乳類では真に新しい分野であって、いわゆる免疫代謝 - つまり代謝と免疫の間には、古代からつながりがあるという考え方なのです」として、「この非常に原始的な免疫システムにおいて、それが代謝的に調節され、抗病原体機能とは無関係に寿命と健康に影響を与えることを示すことができました。この時点で、私はこれを原始免疫代謝経路または免疫代謝調節と名付けました」と述べています。

この発見をした後、ブラックウェル博士はIGF1シグナル伝達の低下というよく知られた寿命メカニズムが免疫系にも作用しているかどうかに興味を待ちました。20年以上に渡って、多くの異なる生物における研究の結果、低レベルのIGF1シグナル伝達がより長い寿命に寄与することが確認されています。これはFOXO(C. elegans線虫ではDAF-16)と呼ばれるタンパク質による保護因子の活性化によるものと考えられています。

IGFの構造(出典:Wekipedia Commons, By Nevit Dilmen –  Cn3D ,NCBI, CC BY-SA 3.0, Link )


この新しい研究で、ブラックウェル博士と彼のチームは、線虫の中でIGFシグナル伝達が減少すると、FOXOに似たDAF-16によって引き起こされる連鎖反応が保護メカニズムを高めるだけでなく、線虫の食欲減退にもつながることを発見しました。これにより、被験体は自然にカロリー制限状態になります。

「これは “IGF1シグナル” 伝達の増殖メカニズムを食物消費と食物探索行動に大きく結びつけるものです」とブラックウェル博士は言います。

FOXO類似遺伝子の活性低下は、絶食状態にあって栄養素不足の可能性があることを線虫に伝えているもののように思えます。これは線虫にエネルギーを節約するように指示するもので、食物摂取量の減少につながりますこの自主的なカロリー制限は自然免疫反応の低下につながります。ブラックウェル博士は、FOXOタンパク質が食欲を抑制するためにどのように作用するかをさらに研究し、それが最終的に医薬品開発につながるかどうかを解明すべく計画しています。

この研究で観察された現象に関わる遺伝子はヒトに保存されています。これにより、免疫システムの最適化から食欲管理のための医薬品開発まで、人間の医療用途に向けてその可能性が開かれます。

ブラックウェル博士は、「究極の目標は人の健康的な寿命を操作できるようにすることです」として「人を120、130歳まで生きさせるのではなく、健康的な生活の期間を延ばすことです。そして慢性炎症はヒトの老化の主な要因です。人間の健康寿命を延ばすために、ある特定のメカニズムが老化進行中のヒトの免疫機能を最適化する可能性があります。」と述べています。

引用ニュース & 原著論文

🔵 英語ニュース:New Evidence Links Lifespan Extension to Metabolic Regulation of Immune SystemJoslin Diabetes Center )

🔵 原著論文: Dietary Restriction Extends Lifespan through Metabolic Regulation of Innate Immunity. ( Cell Metabolism, 2019)

Seigoの追記

 IGF1(インスリン様成長因子1)のシグナルを抑えると長寿につながるというデーターは以前からありますが、今回も再現性があったようですね。

上のプレスリリースでは「IGF1 のシグナル」と書いてありましたが、原著論文のCell Metabolismには「インスリン/IGF1 のシグナル」と表記されていました。

ここでもやはり「インスリン」が重要な役割を果たしているようで、人でもインスリンの血中濃度をあまり上げないようにしたほうが、炎症も起きないですし、長寿につながるということなのでしょう。(インスリンはパンや砂糖の入ったコーヒーなどで簡単に上がってしまうので注意しましょう)

私は食事の前にお皿いっぱいのサラダを食べると(ドレッシングは砂糖なし)、食事の時にインスリンが上がらないので、この食べ方がとても気に入っています。

またIGF1は市販の牛乳に多く入っているので、「インスリン/IGF1 のシグナル」を活性化させないように気をつけたいのものです。

これからも「インスリン/IGF1 系のシグナル系」の研究報告がありましたら取り上げていきますので、お楽しみに 😄

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