免疫療法に効果ない理由が判明! エキソソーム除去で反応率回復に成功! (2019年最新論文)

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ニュース/レビュー

がんは免疫システムを遠隔武装解除するために分子のサボタージュ(妨害工作する者)を出すという報告です。

カリフォルニア大学サンフランシスコ校の最新研究がプレスリリース(英文)されましたので、それを翻訳したものをここでご紹介します。

またこの研究は Cell 誌にオープンアクセスとして発表されたので、どなたでも無料で閲覧できます(翻訳の下にリンクを貼っておきます)

ニュースタイトル「がんは免疫システムを遠隔武装解除するために分子のサボタージュ(妨害工作する者)を出す」

ノーベル賞受賞者 本庶佑博士の研究チームが開発に貢献したチェックポイント阻害剤の1つ「オプシーボ」(ニボルマブ)(出典:Wikimedia Commons, Public Domain, Link )


チェックポイント阻害剤として知られている免疫療法薬は、ガン治療に革命をもたらしました。最近まで治療不可能と考えられていた悪性腫瘍を持つ多くの患者は長期寛解(かんかい, 病気の症状が、一時的あるいは継続的に軽減した状態)を経験しています ところが、大多数の患者はこれらの薬に反応しません。ガンによっては良好な結果を示すのですが、なぜそうなるのかの理由は解明されていません。今回、カリフォルニア大学サンフランシスコの研究者らは、多くのガンがなぜこれらの薬に反応しないのかの根拠となるかもしれない驚くべき現象を特定しました。この現象は、免疫システムを病気に対して立ち向かわせる新しい戦略を示唆するものです。

「最善のケース、例えば黒色腫では、免疫チェックポイント阻害剤(免疫抑制シグナルを阻害してT細胞を活性化する薬剤)患者の20~30%で反応が見られますが、他のガン、例えば前立腺ガンでは、それはわずか1ケタ(10%未満)の反応率しかないのです」と 、UCSFの泌尿器科教授であり、4月4日の Cell 誌に発表された論文の上級著者であるRobert Blelloch 医学博士は述べています。「それは、大多数の患者に効果がないことを意味します。我々はその理由を知りたかったのです」

悪性組織では、PD-L1と呼ばれるタンパク質が「透明人間になるためのマント」として機能します。細胞表面にPD-L1を提示することで、ガン細胞は免疫システムによる攻撃から身を守っています。最も効果のある免疫療法のいくつかは、PD-L1、またはその受容体で免疫細胞に存在するPD-1に干渉することで機能します。 PD-L1とPD-1との間の相互作用が遮断されると、腫瘍は免疫系から隠れる力を失うため、免疫からの攻撃に受けやすくなります。

いくつかの腫瘍がこれらの治療に耐性があるようにみえる理由の一つは、それらがPD-L1を生産しないため、既存のチェックポイント阻害剤が作用する部分がないためです。こうした腫瘍は、未知のチェックポイントタンパク質によって免疫システムから身を隠しているのかもしれません。 科学者らは以前に、前立腺ガン患者の腫瘍細胞には、PD-L1タンパク質が非常に低いレベルでしか存在しないか、または完全に存在しないことを明らかにしており、免疫治療への反応性の低さはそのためと考えることができます。

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しかし、Blelloch 博士らの新しい論文では、この謎に対する全く異なる答えを提案しています。これらの腫瘍で、PD-L1自体は大量に合成されているらしく、しかし表面にタンパク質を提示するのではなく、「分子の運び屋」エキソソームによって分泌されている、というものです。PD-L1充填エキソソームはガン細胞から放出し、リンパ系または血流を経由して、免疫細胞の活性化が起こる部位であるリンパ節へと向かいます。そこでPD-L1タンパク質は「サボらせ屋分子」として働き、遠隔操作で免疫細胞を武装解除し、免疫細胞を腫瘍組織に向かわせないことで、ガンへの攻撃を妨害します。

つまり、エキソソームPD-L1は、腫瘍表面での免疫応答を遮断する以前に、免疫細胞がそこに到達することすらできない状態にしているわけです。 その上、腫瘍表面に見られるPD-L1とは異なり、エキソソームPD-L1は、どういうわけか既存のチェックポイント阻害剤に耐性を持っています。

「標準モデルでは、PD-L1は腫瘍ニッチにやってきた免疫細胞に作用し、その場所で免疫抑制作用を及ぼすとされていました」と Blelloch博士は述べています。 「我々のデータは、これが多くの免疫療法抵抗性の腫瘍には当てはまらないことを示唆しています。これらの腫瘍は、 エキソソームPD-L1をリンパ節に送り込み、免疫細胞の活性化を遠隔的に阻害することによって免疫系を回避しています。これまでのドグマを引っくりかえす発見です」

Blelloch博士のグループは 、PD-L1を提示するという標準モデルに欠陥があることを示す奇妙な点に気付いた時、エキソソームを調べることにしました。まず、過去の研究同様、抵抗性のガンではPD-L1タンパク質が低レベルであることがわかりました。ところが、メッセンジャーRNA(mRNA)を調べると、矛盾した結果が得られました。PD-L1タンパク質がほとんど無いような細胞の中に、タンパク質量に対してはるかに多くのPD-L1 mRNAが存在したのです。

「mRNAとタンパク質のレベルの違いが、どうして生じているのかを解明したいと思いました。実験によって、タンパク質が実際にはある時点までは作られており、分解もされていないことが示されました。そこで我々は、エキソソームを調べ、PD-L1の行方を突き止めたのです」

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エキソソームPD-L1は免疫応答を阻害し、ガンの増殖を促進する

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エキソソームPD-L1が、免疫を「目隠し」することに関与していること証明するために、研究者らはチェックポイント阻害剤に耐性のあるマウス前立腺ガンモデルを用いました。 これらのガン細胞を健康なマウスに移植すると、腫瘍は急速に増殖しました。一方、CRISPR遺伝子編集システムを使ってエキソソーム生産に必須の2つの遺伝子を欠如させると、編集されたガン細胞は遺伝的に同一なマウスに移植されても腫瘍を形成することができませんでした。編集細胞および未編集細胞は、PD-L1を産生している点は同じですが、エキソソームを形成できない場合、PD-L1がブロックされ、腫瘍は免疫細胞に見つけ出され攻撃されるのです。

論文の主執筆者であるMauro Poggio 博士研究員は次のように述べています。

「この発見の重要性はすぐに明らかになりました。現在、エキソソームPD-L1の破壊力を押し留める薬はありませんから、エキソソームPD-L1の作用機序を理解することは、新しい治療法の開発に繋がるかもしれない最初の基盤づくりです」

続く実験では、同じ編集細胞を健康なマウスに移植後、エキソソームPD-L1を注入しました。エキソソーム産生ができないCRISPR編集ガン細胞は、免疫系の犠牲になるはずです。 しかし注入されたエキソソームがガンに代わって免疫応答を中和したため、エキソソーム産生能を失ったガン細胞でも腫瘍を形成できることが証明されました。

エキソソームPD-L1が免疫系にどのように干渉しているかを解明するため、CRISPR編集を施したガン細胞と、編集していないガン細胞、それぞれを移植したマウスのリンパ節を調べました。 編集された細胞を投与されたマウスでは、免疫システムの司令塔であるリンパ節において、免疫細胞の増殖および、より多くの活性化免疫細胞を有することが判明しました。

別のモデル、結腸直腸ガンは、ごく一部しか免疫療法に反応しないことが知られていますが、研究者らはマウスにおいて、2つの異なるPD-L1プールを特定しました。1つはPD-L1阻害剤に感受性を示す腫瘍細胞表面上、もう1つはPD-L1阻害剤耐性のエキソソームです。 エキソソーム形成を抑制する薬剤と、PD-L1阻害剤を同時に投与したマウスは、どちらか一方の薬剤だけで治療されたマウスより長く生存しました。

「2つの非常に異なるガンモデルを用いたこれらのデータから、エキソソームを介したPD-L1の放出を抑制する、という新しい治療の方向が導き出されます。PD-L1の放出抑制単独で、あるいは現行のチェックポイント阻害剤と組み合わせることで、チェックポイント阻害剤が効かない患者の多くに、効果を生じさせることができるかもしれません」とBlelloch博士は述べています。

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エキソソーム欠損腫瘍細胞は、免疫抵抗性に対して「ワクチン」として作用する

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今回の論文の驚くべき結果から、研究者らは、CRISPR編集を施したエキソソーム欠損ガン細胞を用いて、免疫攻撃に抵抗性の腫瘍細胞に対し、それを標的とする抗ガン免疫応答を誘導できることを見出しました 。

研究者らはまず、エキソソームを産生できないCRISPR編集ガン細胞を正常マウスに移植しました。 90日後、未編集の、おそらく免疫攻撃を回避するガン細胞を同じマウスに移植しました。エキソソーム欠損のCRISPR編集ガン細胞に晒されていた免疫システムは、もはやガン細胞を見逃すことはありませんでした。 免疫システムは、本来は免疫を回避できるこれらのガン細胞を見過ごすことなく、標的と定めて激しく攻撃し、ガン細胞の増殖を防いだのでした。

「エキソソーム PD-L1を産生できないガン細胞に曝露された免疫系は、抗腫瘍の記憶を会得します。一旦、免疫系が記憶を得れば、既にこの形態のPD-L1には反応性はあまりなく、したがってエキソソームPD-L1産生ガン細胞を攻撃の標的にできるようになるのです」

もう1つの驚くべき結果が得られました。CRISPR編集を施しエキソソームを形成しないガン細胞と、編集していないガン細胞、それぞれを同時に、同じマウスの反対側の位置に移植したところ、同時に導入されたにもかかわらず、CRISPR編集ガン細胞が優勢に機能することがわかりました。CRISPR編集ガン細胞が免疫系を活性化したために、反対側で成長している、未編集の、おそらく免疫攻撃を回避するガン細胞の腫瘍への攻撃が観察されました。

これらの結果は、エキソソームを介したPD-L1の放出を一時的に阻害しさえすれば、長期間にわたる全身的な腫瘍の成長を抑制する効果が期待できることを示唆しています。さらに、新しい種類の免疫療法の可能性をも示唆しています。それは、患者のガン細胞を活性化するために編集し再導入することで、免疫システムを活性化し、免疫抵抗性のガンを攻撃させるというものです。 Blelloch博士のチームが考案した、エキソソームを介したPD-L1の放出の抑制、 または「腫瘍細胞ワクチン」の導入は、今日の治療薬の効果が見られない患者に希望を与えるものかもしれません。

Poggio 博士は次のように述べています。

「PD-L1のガンにおける機能については、さらに多くのことを解明する必要があります。PD-L1のブロックが、現在治療効果の見られない多くの攻撃的な腫瘍を抑制する可能性のある新しいメカニズムかもしれないことを、ほんのちょっと垣間見ているに過ぎないのです」

ーーー 翻訳ここまで ーーー


引用ニュース & 原著論文

🔵 英語ニュース:Cancer Exports Molecular ‘Saboteurs’ to Remotely Disarm Immune System( 

🔵 原著論文: Suppression of Exosomal PD-L1 Induces Systemic Anti-tumor Immunity and Memory (Cell, 2019)

Seigoの追記

私がすごく興味をもったのは次の記述です。

もう1つの驚くべき結果が得られました。 CRISPR編集を施しエキソソームを形成しないガン細胞と、編集していないガン細胞、それぞれを同時に、同じマウスの反対側の位置に移植したところ、同時に導入されたにもかかわらず、CRISPR編集ガン細胞が優勢に機能することがわかりました。CRISPR編集ガン細胞が免疫系を活性化したために、反対側で成長している、未編集の、おそらく免疫攻撃を回避するガン細胞の腫瘍への攻撃が観察されました。

こういう現象が起きるということは、免疫チェックポイント阻害剤が効かないがん細胞を取り出して、CRISPRでエキソソームを出ないようにしてから移植すれば、PD-L1への反応性が良くなって(T細胞の免疫力が上がって)、これまで小さくならなかった腫瘍までも撃退できるということになりますね。

この方法を使えば、反応性が良くなるので新しい薬剤を使う必要もないでしょう。

がんの免疫を逃れる仕組みようやく分かってきました! それが早く免疫療法に応用されるといいですね。

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