パーキンソン病の原因物質は迷走神経を通じて腸から脳に移動することが判明!? (2019年最新研究)

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パーキンソン病の原因物質と考えられるαシヌクレインが、迷走神経を経由してマウスの腸から脳へ伝達されるという事実を見出しました。またそのαシヌクレインの伝達を遮断するとパーキンソン病が悪化しないことも突き止めました。

この研究はJohns Hopkins大学医学部の研究チームによってなされ、Neuron 誌に出版され、またそのレビュー記事(英文)は大学のサイトで紹介されました。今回はそのレビュー記事を翻訳しましたので、紹介させていただきます。(翻訳のプロではないので読みづらかったらすみません m(_ _)m )

動物を使った研究でパーキンソン病の原因が腸内あるという1つの証拠を示します

マウスでの実験は、神経殺傷タンパク質が腸から脳へ伝達されることを示しています

Johns Hopkins Medicineの研究者らは、パーキンソン病が腸の細胞に起因し、末梢神経を通って脳に到達することについて、マウスでの実験によって更なる証拠を発見した、と述べています。6月に Neuron 誌で発表された研究は、パーキンソン病の進行を予防、または停止させる可能性のある治療法をテストするための、新しくより正確なモデルを提供するものです。

Johns Hopkins大学医学部の神経学教授で、細胞工学研究所のディレクターであるTed Dawson博士は、次のように述べています。
「これらの知見はパーキンソン病における腸の役割のさらなる証拠と、疾患の進行の初期から研究を行えるモデルを提供するものです」

パーキンソン病は、脳の細胞内のαシヌクレインと呼ばれるミスフォールドタンパク質の蓄積によって特徴付けられます。これらのタンパク質の多くが凝集し始めると神経組織を死滅させ、Lewy小体として知られる大量の死んだ脳物質を残します。脳細胞が死んでいくと、運動、思考、感情をコントロール能力が失われていきます。2003年、ドイツの神経解剖学者Heiko Braakは、パーキンソン病患者において、腸を制御する中枢神経に、ミスフォールドされたαシヌクレインが蓄積していることを見出しました。今回の研究は、この観察結果の再評価となるものです。

αシヌクレインの構造(出典:Wikimedia Commons, by AnonymousCC BY-SA 3.0, Link


Johns Hopkins大学医学部の神経学准教授のHanseok Ko博士によると、これらの神経損傷タンパク質の出現は、便秘などのパーキンソン病のいくつかの初期症状と同調して起こります。 Braak氏の仮説 は、腸と脳をつなぐ神経を、ハシゴを登るように伝わり、パーキンソン病が進行する、というものです。

パーキンソン病の発症における腸-脳の関係を示唆する証拠が増えてきています。研究者達が最も興味を持っているのは、胃と小腸から脳の基部まで、電気ケーブルのように走る迷走神経の神経束に沿って、ミスフォールドされたαシヌクレインが移動できるかどうか、という点です。

このことを確かめるために、合成したミスフォールドαシヌクレイン25マイクログラムを、健康なマウスの腸に注入し、1、3、7、10ヵ月後にマウス脳組織を採取して調べる実験を行いました。その結果、10ヵ月の実験の過程において、迷走神経が腸に接続する部分にαシヌクレインが積み上がりはじめ、脳のすべての部分に広がり続けている証拠が得られました。

次に、再度同様の実験を行いましたが、今度は外科的に迷走神経を切断した上で、腸にミスフォールドαシヌクレインを注入する実験群を加えました。7ヵ月後の検査の結果、迷走神経が切断されたマウスでは、無傷の迷走神経を有するマウスに見られる細胞死の徴候が全く見られないことがわかりました。Dawson博士は、切断された神経は、ミスフォールドタンパク質の進出を阻止したようだった、と述べています。

研究者らは続いて、パーキンソン病の進行におけるこれらの身体的な違いが行動の変化をもたらすかどうかを調査しました。この実験は、3つのマウス実験群、すなわち、

① ミスフォールドαシヌクレインを注入するマウス
② 迷走神経を切断した上でミスフォールドαシヌクレインを注入するマウス
③ 神経切断もタンパク質注入も行わないマウス

を用いて、巣作りや新しい環境の探索など、マウスのパーキンソン病の徴候の識別によく使われる方法での評価で行われました。

まず、人間のパーキンソン病の一般的な影響である、細かい運動の器用さを評価するものとして、囲いの中でのマウスの巣作りを観察しました。健康なマウスは、巣を作るために大きくて厚い塚を作るのが一般であるため、小さくて粗雑な巣は、運動制御に問題があることを示す判断材料になります。

タンパク質注入の7ヵ月後、研究者らはマウスに巣材を与え、巣作り行動を16時間観察、能力を7段階でスコア付けしました。その結果、①の条件では(ミスフォールドαシヌクレインを注入されたマウスは)、巣作りにおいて、一貫して低いスコアを記録することがわかりました。

αシヌクレインは神経を通じて腸から脳へ移動する(イメージ画像の出典:PublicDomainPicturesによるPixabayからの画像&Wikimedia Commonsより改変)


コントロール群、および加えて、ほとんどのマウスは与えられた2.5グラムの巣材の全てを使っていたのですが、ミスフォールドαシヌクレイン注入マウスは0.5グラムも使っていませんでした。ヒトにおけるパーキンソン病の症状と同様に、マウスの細かい運動制御は、疾患が進行するにつれて悪化した、とKo氏は述べています。②の切断マウスでは、3~4点の巣作りスコアであったのに対し、①のミスフォールドαシヌクレイン注入マウスでは1点未満の点数でした。加えて、ほとんどのマウスは与えられた2.5グラムの巣材の全てを使っていたのですが、ミスフォールドαシヌクレイン注入マウスは0.5グラムも使っていませんでした。ヒトにおけるパーキンソン病の症状と同様に、マウスの細かい運動制御は、疾患が進行するにつれて悪化した、とKo氏は述べています。

ヒトのパーキンソン病に似た症状について、マウスを分析した別の実験では、マウスが新しい環境にどのように反応したかを監視することによって、マウスの不安レベルを測定しました。

マウスを大きな開いた箱の中に置き、マウスの探査行動をカメラで記録します。健康なマウスは好奇心が強く、新しい環境のあらゆる部分の調査に時間を費やしますが、認知機能低下の影響を受けたマウスは、不安を感じ、安全な、箱の隅に向かう傾向が高くなります。

研究チームは、コントロール群と、②の条件で(パーキンソン病から保護するため迷走神経を切断された群のマウス)は、20~30分かけて箱の中央を探索していることを観察しました。一方、①の条件で(無傷の迷走神経を有しミスフォールドαシヌクレインを注入されたマウス)は、箱の中央には5分といられず、ほとんど箱の縁に沿って行動していることが見出されました。このことは、強い不安レベルにあることを示しており、パーキンソン病の症状と一致している、と報告されています。

以上のように、この研究では、ミスフォールドαシヌクレインが迷走神経を経由してマウスの腸から脳へ伝達され得ること、伝達経路を遮断することで、パーキンソン病の身体的および認知的症状の予防となり得ることが示されています。

「この分野でのエキサイティングな発見であり、この疾患への早期介入のターゲットとなります」と、Dawson博士は述べています。

今後、迷走神経のどの部分が、ミスフォールドタンパク質が脳に登ることを可能にするのかを調べ、それを止める可能性のあるメカニズムを明らかにすることが計画されています。

ーーー 翻訳ここまで ーーー


引用ニュース & 原著論文

🔵 英語ニュース:New Animal Study Adds to Evidence of Parkinson’s Disease Origins in the Gut

🔵 原著論文 : Transneuronal Propagation of Pathologic a-Synuclein from the Gut to the Brain Models Parkinson’s Disease, (Neuron, 2019 )

Seigoの追記

ミスフォールドしたαシヌクレインが脳に蓄積してパーキンソン病が発症するのは効いていましたが、そのαシヌクレインが腸から来ていて、しかも迷走神経を登ってくるとは驚きました。

なんとこの説は2003年から出されており、Braak(ブラーク)仮説と呼ばれていたようです。(2003年の論文

ミスフォールドしたαシヌクレインが腸から登っているのは確実なようで、迷走神経を切ってしまうと、αシヌクレインの脳への移動は停まり、パーキンソン病は進行しないそうです。

これでいろいろな薬や予防法が出てきそうですね。

そもそもいったい何でミスフォールドしたαシヌクレインが腸でできてしまうのでしょうか?

先日紹介したnatureの論文では腸にいるグラム陰性菌がパーキンソン病と関係しているとありましたので、もしかしたらグラム陰性菌の中でミスフォールドしたαシヌクレインを大量に作ってしまうかも知れませんね。

これからの研究の伸展に期待し、早くすべてのパーキンソン患者さんが完治できることを願っています 😄

パーキンソン病関連の書籍

右の書籍の35ページにパーキンソン病やアルツハイマー病も腸が起因していると書かれています。


 

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