酸化チタンは癌の転移を促進する!? しかし転移を抑える糖タンパク質も見出される (2019年最新論文)

ニュース/レビュー

がんの診断や治療など、さまざまな生物医学用途に使われるナノ粒子がんの促進させる作用があることが見つかってしまいました。しかし朗報もあります。転移の原因である細胞のすきまを埋めてくれる糖タンパク質も合わせて発見されましたので、2つの論文からご紹介させていただきます。

これはシンガポールの研究チームが発見し、2つの論文にまとめられました。また大学のサイトにもレビュー記事(英文)が掲載されましたので、今回はそのレビュー記事を翻訳しました。(翻訳のプロではないので読みづらかったらすみません。

血管を横断するトラフィックを調整する「スイッチ」 A ‘switch’ that regulates traffic across blood vessels

2019年8月5日 – シンガポール国立大学(NUS, National University of Singapore)の科学者は、血管を通過する細胞および物質の輸送を調節する制御メカニズムを発見しました。この結果は、がんの転移に大きな影響を与える可能性があります。

ナノ粒子は、がんの診断や治療など、さまざまな生物医学用途で使用されています。薬物放出するナノ粒子Drug releasing nanoparticles)は、腫瘍部位に局所的に薬物を送り込めるように設計できます。しかし、最近の研究では、これらのナノ粒子が血管壁にマイクロ*メートルサイズ(※ マイクロメートル(µm)はナノの1000倍の長さのすきま(gap)を形成してしまい「漏れやすく」してしまうことが示されています。がん患者では、これらのすきまにより、がん細胞が初発部位から体の他の部位に転移し、生き延びやすくしてしまいます。

NUS薬学部のHO Han Kiat教授と、NUS化学生体分子工学部のDavid LEONG教授研究チームは、アンジオポエチン-1(タンパク質の一種)が、ナノ粒子によって生じた血管のすきまを埋め、透過性を低下させることができることを発見しました。血管壁を通る物質と分子の通過が制御されることから、体内のアンジオポエチン-1の量を調整することにより、生物医学用途のナノ粒子によって引き起こされた、血管の「漏れやすさ」を制限し、逆転できることを明らかにしました。

二酸化チタン製のナノ粒子はがんの転移を促進させる

実験では、研究チームはマウスの皮膚下に乳がん細胞を投与し、血管に二酸化チタンナノ粒子を導入し、ナノ粒子が血管へのがん細胞の漏出(ろうしゅつ)を増加させることを示しました。この漏れの影響により、血流を介したがん細胞の遠隔組織へ移動が促進され、がん細胞がこれまでアクセスできなかった新しい二次がん部位が形成される可能性があります。

アンジオポエチン-1はナノ粒子によってできたすきまを閉じる作用がある

続いて、チームは、アンジオポエチン-1が血管表面に見られる調節因子TIE2の成長因子として作用することを発見しました。多くのアンジオポエチン-1が存在すると、TIE2タンパク質は局在化し刺激されて、ナノ粒子によって引き起こされる血管のすきまを塞ぎます。これにより、血管壁の透過性が低下し、血流に漏れるがん細胞の量が制限されます。

HO 教授は「この研究は、アンジオポエチン-1が、ナノ粒子によって誘発される漏れを制限し、逆転させるための対抗措置として使用できる可能性があることを示しています。それによって、がん患者におけるガン細胞の血管外遊出と他組織への転移の減少に繋がります」と述べています。

アンジオポエチン-1はTIE2受容体に結合し血管のすきまを塞ぐ。またTIE2受容体は細胞内シグナルを活性化され微細管を再構成する。〔シンガポール国立大学のプレスリリースより〕


提案されたアンジオポエチン-1(Ang-1)のメカニズムは、ヒト微小血管内皮細胞の抗透過性効果を誘発しました。の画像は、タンパク質TIE2の位置を特定するために染色された血管細胞を示しています。 アクティベーターのアンジオポエチン-1(Ang-1)が適用されると、TIE2は細胞表面近くに局在し、そこでAng1-Tie2は細胞を一緒に保持するブリッジを形成します。 その後の実験では、Ang1の結合がAktまたはErkのリン酸化を増加させることにより細胞の変化を媒介し、微小管を安定化して細胞構造を維持することが実証されています。

ーーー 翻訳ここまで ーーー


引用ニュース & 原著論文

🔵 英語ニュース:A ‘switch’ that regulates traffic across blood vessels

🔵 原著論文(2報):
Nanoparticles promote in vivo breast cancer cell intravasation and extravasation by inducing endothelial leakiness.(Nat Nanotechnol. 2019 )

Angiopoietin-1 accelerates restoration of endothelial cell barrier integrity from nanoparticle-induced leakiness. (Nanotoxicology , 2019 )

Seigoの追記

ナノ粒子を使ってがん細胞を死滅させる研究が進んでいるようですが、その中で、逆にナノ粒子がガンの転移を促進するという不都合なことが起きているようです。

ナノ粒子といえば、すでに私たちの生活にも広く使われていて、多くの日焼け止めに酸化チタンが入っています〔顔料用の酸化チタンはサイズが200〜300nm(ナノメートル)である。参考資料〕。

医療分野でもバイオイメージング剤という形で血液中に注射される場合もあります。

しかしナノ粒子は、血管に悪影響を及ぼしてしまうそうで、血管の周りの細胞のすきまを作ってしまい悪性のがんはそこを通り抜けて転移してしまうという結果が出ています。

原著論文の Nature Nanotechnology 誌のアブストラクトに書いてありますが、転移を誘発するナノ粒子は、(二)酸化チタンだけではなく、シリカ金ナノ粒子でも起こすと報告されています。

こういったことを頭にとどめて、日々の生活に注意する必要があるでしょう。私は酸化チタン入りの日焼け止めは使うのをやめました。

そして2報目の論文では、ナノ粒子でできてしまった細胞のすき間を元に戻してくれる作用があるのが、アンジオポエチン-1がという物質で、転移の抑制に役立つかも知れないと期待されています。

ナノ粒子関連の書籍


 

関連記事一覧

  1. この記事へのコメントはありません。