生分解性プラスチックによるプラスチック汚染の問題点とは? 解決法は?

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今回はマイクロプラスチック問題をもっと掘り下げていきたいと思います。

「生分解性プラスチック」という言葉は地球に優しそうですが、実は大きな落とし穴があることが分かりました。

さらにマイクロビーズの問題も取り上げ、プラスチック問題全体の対策や解決法について考えていきましょう。

海で見つかるマイクロプラスチック

季節風が強い日には、浜辺には海藻などに混じっていろんな漂流物が打ち上げられます。日本近海では、東シナ海方面から対馬海峡に向かって海流に乗って漂流して来る浮遊物が多いようです。ペットボトルや生活雑貨に混じって、時には注射針などの産業廃棄物も流れ着いているのです。

夏場の海水浴シーズンが近づくと、各地の自治体や市民団体が必死に漂流物の回収作業を行っていますがキリがありません。こんな浜辺のゴミは、みんなで頑張れば取り除くことができますが、中にはどうしても取り除くのが困難なプラスチックがあるのです。それは海中を浮遊するゴミに混じっているマイクロプラスチックと呼ばれるものです。山陰沖での浮遊物の様子の画像を貼り付けました。近海だけでなく100kmほど沖合にも浮遊しているようです。

写真(左):日本海の山陰沖で採取した海洋の浮遊物、写真(右):浮遊物の中に含まれている小さなプラスチックごみ。出典:東京大学海洋アライアンス/海のマイクロプラスチック汚染


海に漂うプラスチック類は、やがて紫外線や熱で劣化したリ浜辺で砂や岩とぶつかって粉々になって海を漂います。そして、5ミリメートル以下の小さな破片になったものはマイクロプラスチックと呼ばれて、世界的に大きな問題となっているのです。

というのも、このマイクロプラスチックは表面積が大きく、海水中に漂っているPCB(ポリ塩化ビフェニル)などの毒性のある汚染物質を吸着する性質があるからです。それをプランクトンや魚が飲み込み、海洋生物の生態系を破壊してしまうのです。それだけではなく、魚類を食する人間、とりわけ魚が大好きな日本人にとっては、健康面からも大きな問題になってきたのです。そこで、短期間で自然に分解してしまうようなプラスチックがあれば、プラスチック汚染の問題も無くなるのではという考えから、プラスチック分野で世界の先端を行くヨーロッパでは、早くから生分解性プラスチックの開発に取り組んできたのです。

生分解性プラスチックとは?

プラスチック廃棄物のイメージ(出典:LillyCantabileによるPixabayからの画像)


生分解性プラスチックというのは、土や水中などの自然界の中に存在する微生物の働きによって、高分子の化合物が無害の水と二酸化炭素に分解してしまうものです。しかし、世の中で使用されている生分解性プラスチックというものは、原料や製法によって様々な種類のものが存在しています。日本バイオプラスチック協会(1989年に設立された「生分解性プラスチック研究会」を母体とする協会)の分類によると、

 生分解性プラスチックの種類 
①微生物産生系(微生物の体内に蓄積されているポリヒドロキシアルカノエートと別のモノマーと共重合させたもの)
②天然物系(植物のセルロース誘導体やトウモロコシのデンプンを原料としたもの)
③化学合成系(代表的なものは、トウモロコシやサトウキビなどのデンプンを発酵させて得られるL型乳酸を化学重合させたポリ乳酸)

に分けられています。現在では、その種類や用途も多岐にわたっているようです。

ポリ乳酸系の生分解性プラスチックは、100%バイオマス由来原料を使っているので、最終的には水と二酸化炭素に分解してしまいます。地球温暖化に対応した環境に優しいバイオマスプラスチックなのです。この素晴らしい生分解性プラスチックが普及しないのは、ポリエチレンやポリスチレン系のプラスチックと比較すると、原材料のコストが高い(推定2~3倍)こととプラスチックの物性が劣ることです。欧米では、1980年ごろからシャンプーボトルや食品包装、コンポスト用袋などに幅広く活用されています。日本では農業用マルチフィルムへの利用が主流ですが、日用品から医療用の分野でも実用化が進みました。

生分解性プラスチックの問題とは?

プラスチックカップごみのイメージ(出典:meineresterampeによるPixabayからの画像)

微生物でも完全に分解できないものがある

生分解性プラスチックと言っても、天然の微生物によって完全に水と二酸化炭素に分解されるものだけではないのです。石油系のプラスチックの原料であるポリエチレンやポリプロピレンに、あらかじめ酸化を促進する添加剤を混合して作った石油系生分解性プラスチック酸化型生分解性プラスチックと呼びます)があります。
これは、紫外線や酸素、熱によってプラスチックを構成する高分子の鎖が比較的速く壊れて、微細なプラスチックに分解してしまうものです。微細なプラスチックとはマイクロプラスチックのことでもあって、自然界の微生物によって分解されることを期待しているのです。

このように、酸化型生分解性プラスチックというものは、大きなプラスチックが破壊されて無くなってしまうように見えるのですが、実は小さなマイクロプラスチックになってしまうだけなのです。生分解性プラスチックと言っても、完全には分解できないものがあるのです。

自然環境の中で生分解性の効果は十分に期待できるのか?

現状での生分解性の評価は、実験室などの定められた環境の下で、コンポスト〔生ゴミを手軽に堆肥(たいひ)に再生できる容器〕の中で20~60度の温度で行われます。微生物も特定のものが使用されます。このことは、自然の環境での生分解の状況を忠実に反映しているとは言えないのです。ましてや、土壌ではなく海水の中では、どのような微生物により分解にどれくらいの時間がかかるのかは、正確には分かっていないのです。もともと、プラスチックは丈夫にできていますし、冷たい海水の中では熱による酸化分解も起こりにくいので、海洋でのマイクロプラスチックの分解には何十年、いや何百年もの長期に渡ることが予想されます。

水中で生分解性に関して、ドイツのバイロイト大学の研究グループの報告によると、欧州で市販されている5種類の生分解性プラスチックとPETを用いて、水中での生分解性を調べました。その結果、ポリ乳酸(PLA)とポリグリコール酸(PGA)の共重合物PLGA, Poly(lactic-co-glycolic acid))が、水中で1年以内(270日)で完全に分解したのですが、その他はほとんど分解しなかったのです。このことは、海洋でのマイクロプラスチック汚染の問題可決には、PLGAが唯一効果が期待されるということでした。しかし逆に考えると、それ以外の生分解性プラスチックでは、あまり効果は期待できないとも言えるのです。(ワイリー・サイエンスカフェ:2017年8月18日投稿)

現在、海洋に浮遊しているマイクロプラスチックは、短い期間で自然に分解されることは期待できないのです。物理的にフィルターでろ過をして取り去るか、今後増えないように規制するしかないのです。

プラスチックゴミのイメージ(出典:Photo by Sharon McCutcheon on Unsplash)

「生分解性」という表現で「エコで地球に優しい」という間違ったイメージを持たないこと!

生分解性という言葉やバイオマス原料を使用という表現だけで、生分解性プラスチックは環境に配慮した地球に優しいものだと認識してしまいます。メーカーとしても、環境に優しいエコな製品というイメージを提供するのです。比較的に生分解性が高いと言われるポリ乳酸(PLA)を主体とするバイオマスプラスチック製品でその傾向が見られます。私たちがそれを安易に受け取って無造作に投棄してしまうと、いずれは自分達の身に汚染という災いが降りかかって来ることを覚えておくべきです。

マイクロビーズの問題も!

もうひとつ厄介なことは、「マイクロビーズ」と呼ばれる1mm以下の大きさのマイクロプラスチックが、歯磨き粉や洗顔剤などの化粧品類に使用されていることです。例えば、マイクロビーズが添加された洗顔剤で顔を洗うと、家庭排水となって下水処理場に流れ込みますが、一部は処理場のフィルターをすり抜けて海洋に流れ出してしまうのです。このマイクロビーズにも毒性のある有害物質が付着して、それをプランクトンや魚が食べるのです。食物連鎖によって、いずれは人間の体内にも有害物質が蓄積されてしまうのです。製造時には添加剤も使用されているので、現在では最も厄介なマイクロプラスチックと言えます。マイクロビーズには、現時点で生分解性が高いものはないのです。

プラスチック汚染の問題点の効果的な対策法は?

リサイクルボックス(出典:Clker-Free-Vector-ImagesによるPixabayからの画像)


ここまでで分かったことは、生分解性プラスチックは土壌の中やコンポストでは比較的速く分解が進むが、温度が低い海洋では遅々として分解が進まないことです。つまりは、万能な生分解性プラスチックは完成していないのです。
しかも、世界のプラスチックごみの発生量は毎年増加の一途で、2015年には3億トンを超えています。そして、回収してリサイクルされないプラスチックごみは、自然界に放置されて海洋に流出してしまいます。その数量は、2010年時点で400万~1200万トンと推定されています。このペースでは、流出してしまったものを回収することすら困難だと思います。
そこで、世界的に取り組んでいる対策としては以下の通りです。

① 使い捨てプラスチックの使用削減とリサイクル化の推進
・EUでは、2018年1月に「プラスチック戦略」(2030年までに包装容器は再利用を目指し、リサイクル能力を上げる取り組み)
日本ではプラスチックリサイクル化が進んでいて、廃プラスチックの約84%がリサイクルされていますが、さらに推進させます。
・企業としてプラスチック製品の使用を減らす取り組みを推進。プラスチック製のストローや容器を廃止して、生分解性プラスチックに切り替える。
② 現行の生分解性プラスチックのコスト削減と、さらに生分解の能力が高い新しい生分解性プラスチックの開発。
③ マイクロビーズの使用禁止。


米国では2015年にはマイクロビーズの化粧品への配合が禁止

イメージ画像(出典:Photo MixによるPixabayからの画像)


マイクロビーズを含む歯磨き粉、洗顔料やボディーソープ、化粧品などにおいて、製造を規制する動きがあります。
米国では2015年にはマイクロビーズの化粧品への配合が禁止され、英国では2018年1月から、マイクロビーズを含む製品の製造禁止を決めました。前回のG-7の首脳宣言でも、マイクロプラスチック汚染の問題が取り上げられています。
日本では2016年に日本化粧品工業連合会が、化粧品関連メーカーに自主規制を呼びかけました。さらに2018年に議員立法が成立してマイクロビーズの使用を抑制するように企業に努力義務を課したのです。本格的な対応はこれからです。

このように、投棄されるプラスチックをいかに減らすかと、万一投棄されても海洋で完全に分解される生分解性プラスチックの開発が急務だと思います。また、ひとりひとりがマイクロプラスチック汚染の恐ろしさを認識し、リサイクルに積極的に取り組む意識を継続することが大事だと思います。

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