がんの最新検出法が開発される! わずか4mmのがんを尿検査のみで検出可

ニュース/レビュー

今回は免疫細胞を利用して新しいがん検出方法が発明されましたのでその報告です。

スタンフォード大学のプレスリリースを翻訳しましたのでご紹介します。

ニュースタイトル「改変型免疫細胞はマウスのがんを検出すると警告を発する

マウス(出典:Robert-Owen-WahlによるPixabayからの画像)


スタンフォード大学の科学者たちは、マクロファージとして知られている免疫細胞を操作してマウスのガンを検出し「報告」させることに成功しました。研究者らはこの技術がヒトの早期ガン診断に応用できると期待しています。

スタンフォード大学医学部の研究によると、腫瘍を検出して明らかにする力を持たせた免疫細胞は、ガンを診断する新しい方法になる可能性があります。

マウスで行われた研究では、特定のクラスの免疫細胞を改変してガンを監視させるために体を巡回させ、問題を発見したときは血液や尿を通して信号を送らせるようにしました。

スタンフォードのガン早期発見カナリーセンターの放射線学教授・兼会長のSanjiv “Sam” Gambhir博士は次のように述べています。

「我々は長年ガンの早期発見法を探していましたが、今回、別の角度から考えてみたのです。つまり、ガンが存在した場合に自然の状態では十分な信号が出されないのであれば、なんとか工夫して体に作らせることはできないだろうか。今回の場合、免疫細胞を細工して体のどこかにガンができた時に検出可能なレベルのマーカーを放出させることはできないだろうか、と」

この疑問から、免疫細胞を情報源に変換する技術を発展させ、Gambhir博士によると動物体内で働く初めての「免疫診断」と呼べる現象を可能にしました。

「免疫療法と同様に、免疫診断薬は身体自身の細胞にもう一つの目的を付加します。この場合は、病気や損傷を受けた細胞の存在を報告することです」

現在のところ、この技術は直径4mmほどつまり鉛筆の先の消しゴムほどの小さな腫瘍を検出することができ、最も先進的な初期の腫瘍検出方法のいくつかを上回る感度だということです。

免疫細胞のシグナルは腫瘍細胞を含む特定のクラスの機能不全細胞について「報告」を発しますが、これらの細胞にとどまらずこの方法を応用することで、ガンの他に多発性硬化症や慢性炎症などの他の疾患に起因する機能不全細胞に対して用いることができるそうです。

この研究論文は、3月18日にNature Biotechnologyにオンラインで掲載され、バージニア州のGambhir博士と、ガン臨床研究のD.K. Ludwig教授が上席著者、医学部生のAmin Aalipourが筆頭著者です。

天然の探偵 vs 設計された捜査官

検査のイメージ(出典:Steve BuissinneによるPixabayからの画像)


腫瘍が成長すると、ほんのわずかのDNAが剥がれ落ちて血流に流れ出します。理論上は、単純な採血でもガンのかけらを検出できるはずですが、実際には循環する腫瘍DNAは必ずしも量が豊富ではないため、採血や尿サンプルで十分にそれを捕捉する可能性は、特に腫瘍が小さい場合、あまり見込めません。

「初期のガンの証拠を探そうとするほど、血流中に循環する腫瘍分子はますます少なくなります」

とGambhir博士は言います。

しかし、ガンを早期に発見することは完治させるためには重要です。

Gambhir博士のチームは、新しい解決策を模索するにあたり、免疫細胞の一種であるマクロファージを活用することにしました。マクロファージは元々、体内の損傷を受けた細胞や機能不全の細胞を探し出す働きを持ちます。

その挑戦はマクロファージが腫瘍らしい環境を検出できたことが一つの決定打となり、研究チームはある解決法を思いついたのです。

チームはマクロファージ本来の強みを生かすことにしました。マクロファージを含め免疫細胞は、免疫細胞としての職務を果たす際に、遺伝子レベルでの変換が起こります。マクロファージが腫瘍環境と接触すると特定の遺伝子がオンになり、マクロファージの主な仕事である機能不全細胞や死細胞の貪食を活性化するのを助けます。 Gambhir博士による改変は、これらの遺伝子活性化に拍車をかけるプロセスを利用しているものです。

プロモーターを引き金に

マクロファージ(出典:Wikimedia Commons, Link


すべての遺伝子にはプロモーターと呼ばれる遺伝子の活性化を促進するDNAの配列が含まれています。この場合、マクロファージによる腫瘍細胞の検出によってプロモーターが目覚めたら、続いての遺伝子活性化プロセスが起こり、遺伝子は完全な機能を発揮します。

研究チームはマクロファージが疑わしい細胞を検出したときに発現する遺伝子のプロモーターに、新たな機能を追加することができました。血中や尿中で検出できるようなシグナルの遺伝子を腫瘍関連プロモーターに繋げたのです。

「この分子マーカーはガウシアルシフェラーゼといい、適当な化学環境に入れると光るのです。つまり、マクロファージが腫瘍細胞を感知したときにオンになる遺伝子を選択し、その遺伝子のプロモーターをガウシアルシフェラーゼに繋げた構造をマクロファージに導入するという計画です」

こうして改変されたマクロファージは通常通り身体中を巡りますが、この場合には損傷を受けた細胞を見つけたらそれを教えてくれるわけです。研究チームは乳ガンのモデルマウスの実験で、改変されたマクロファージによって血または尿のサンプルから直径4mmの腫瘍を検出することができました。この初期段階の腫瘍では、新しい免疫診断法は他のがん検出法より優れていました。腫瘍は非常に小さいので、確実に検出できる量の血中循環DNAが生成されていません。また、標準的な画像診断法であるPETスキャンでは、直径8mmの腫瘍を見つけられる感度しかありません。

マクロファージが腫瘍の可能性のあるところに引っかかったかどうかを確認するためには、血や尿の検体にガウシアルシフェラーゼに反応して光る基質を加えます。液体が光ったということは、改変したマクロファージの腫瘍関連遺伝子が活性化された、ということを意味します。

より精密な診断を

診断イメージ(出典:David MarkによるPixabayからの画像)


検体が光ることで、ガンの存在を指し示せるわけですが、技術開発の現時点での決定的な診断法ではないとGambhir博士は述べています。マクロファージのこれら遺伝子の活性化は、腫瘍や創傷による調子の悪いわずかな細胞の存在を示すものです。そのシグナルが検出されたとして、ガンの標的によって反応したのかどうかを、他の検出方法で確認する必要があります。

ガウシアルシフェラーゼによる細工は一例に過ぎず、PETスキャンレポーターやトレーサーなど、あらゆるレポーターを用いることができます。マクロファージが腫瘍で活性化され、それをPETスキャン下で光らせることができれば、ガンの場所の特定を容易に行うことができます。また、免疫診断戦略は、マクロファージ以外の免疫細胞、例えばT細胞への応用も考えられます。

Gambhir博士は今後、他の種類の損傷細胞ではなく腫瘍細胞のみを対象とした方法に改良し、様々な種類のがんや他の動物モデルでも検出方法をテストすることを計画していると述べています。

ライター: Hanae Armitage
(スタンフォード大医学部広報室のサイエンスライター


引用ニュース & 原著論文

🔵 英語ニュース:Modified immune cells issue alert when detecting cancer in miceStanford University Medical Center2019.3.18

🔵 原著論文 : Engineered immune cells as highly sensitive cancer diagnostics ( Nature Biotechnology (2019))

Seigoの追記

免疫細胞にがんを見つけてもらって、そのシグナルを拾うことができればすごく正確そうな診断になりそうですね。

しかしそもそも4mmの大きさまでガンとして成長してしまった細胞に免疫細胞が「ここにがんがいましたよ」っというシグナルを出してくれるものなのでしょうか?

なぜって、今まで見逃されてきたがん細胞だから(つまり正常細胞と間違えて大きくなるのを許してしまった細胞だから)これがガンですよって警告するシグナルを出してくれるものなのかは疑問があります。

今後の研究の進展に期待します。

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