ケトジェニックダイエットが腸の幹細胞を活性化させることが判明!? しかし糖質をたくさん摂れば逆効果! (MITがCell 誌に発表)

ニュース/レビュー

Cell 誌に断食が科学的にも良いとする論文が立て続けにに出ております。

今回の研究は断食だけではなく、高脂肪食(ケトジェニックダイエット)でも同じように腸の幹細胞が活性化し、腸の再生が促進されたという報告です。

またこの研究はMITの大学サイトに論文レビューがプレスリリースされました。このサイトではそのレビュー記事(英文)を翻訳しましたのでご紹介します。
翻訳のプロではないので読みづらかったらすみません m(_ _)m )

ある代謝物が腸幹細胞の働きとつながりがあることを研究は示しています

ケトン体と呼ばれる分子が新しい腸組織を再生する幹細胞の能力を向上させる可能性があります

英文執筆者:Anne Trafton (MIT News Office)
プレスリリース:2019年8月22日

MITの生物学者は、ケトジェニックダイエット(または脂肪の多いダイエット)の期しない効果を発見しました:彼らは、脂肪の分解によって生成される分子である高レベルのケトン体が、腸の内層を健康に保つために重要な、成人の幹細胞の大きなプールを維持するのに役立つことを示しました。

研究者はまた、高脂肪食がなくても、腸幹細胞が異常に高いレベルのケトン体を生成することを発見しました。これらのケトン体は、幹細胞分化の調節に役立つことが以前に示されたノッチ(Notch)と呼ばれるよく知られているシグナル伝達経路を活性化します。

「ケトン体は、代謝産物が腸内で幹細胞の運命を指示する最初の例の1つです」と、Eisen and Chang Career Developmentの生物学の准教授であり、MITのKoch統合がん研究所のメンバーであるOmer Yilmaz氏は言います。「これらのケトン体は、通常、栄養ストレス時のエネルギー維持に重要な役割を果たすと考えられており、Notch経路に関与して幹細胞機能を強化します。さまざまな栄養状態や食事でのケトン体レベルの変化により、幹細胞はさまざまな生理学に適応することができます。」

マウスの研究で、研究者は、通常の食事のマウスの幹細胞と比較して、ケトジェニックダイエット腸幹細胞に腸の内層の損傷からの回復をより良くする再生を後押ししたことを発見しました。

Yilmazは、Cellの 8月22日号に掲載された研究の主著者です。MITのポスドクChia-Wei Chengがこの論文の主執筆者です。

予期しない役割

多くの異なる細胞タイプに分化できる成体幹細胞は、体全体の組織に見られます。腸内層は数日ごとに交換されるため、成体幹細胞は腸内で特に重要です。Yilmazの研究室は、 高齢マウス の幹細胞の機能は 空腹時 に強化され高脂肪食が腸内の幹細胞集団の急速な成長を刺激できることを以前に示しました。

この研究では、研究チームは、腸幹細胞の機能における代謝の可能な役割を研究したいと考えていました。遺伝子発現データを分析することにより、チェンは、ケトン体の生成に関与するいくつかの酵素が、他のタイプの細胞よりも腸幹細胞に多く存在することを発見しました。

脂肪のとても多い食事を食べると、細胞は炭水化物がない時に体が燃料を使えるように、脂肪をケトン体に分解するために酵素を使いますHMGCS2という酵素)。しかし(中性脂肪を)ケトン体に分解する酵素は腸幹細胞で非常に活性が高いので、これらの細胞は通常の食事を摂取しても異常に高いケトン体レベルを持っています。

驚いたことに、研究者らは、損傷組織の再生などの幹細胞機能の調節に重要であることが知られているNotchシグナル伝達経路ケトン活性化することを発見しました。

「腸の幹細胞は、それ自体でケトン体を生成し、それらを使用して、細胞の系統と運命を制御する配線された発達経路を微調整することにより、独自の幹細胞性を維持できます」とチェン氏は言います。

マウスでは、研究者はケトジェニックダイエットがこの効果を高め、ケトン食を食べたマウスが新しい腸の組織をより良く再生できることを示しました。研究者がマウスに高糖質食を与えたとき、彼らは反対の効果を見ました:ケトン産生と幹細胞機能の両方が減少しました。

幹細胞機能

この研究は、 空腹時 高脂肪食 両方が腸幹細胞の機能を高めることを示す Yilmaz の以前の研究によって提起されたいくつかの質問に答えるのに役立ちます。新しい発見は、炭水化物摂取を制限するあらゆる種類の食事を通してケトン体形成を刺激することが、幹細胞増殖の促進に役立つことを示唆しています。

「ケトン体は、食物不足の期間に腸内で高度に誘導され、幹細胞の活性を維持および強化するプロセスで重要な役割を果たします」とYilmaz氏は言います。「食べ物がすぐに手に入らないときは、腸が幹細胞機能を維持する必要があるかもしれません。そのため、栄養素が豊富になったときに、腸の細胞を再増殖できる非常に活発な幹細胞のプールができます。」

肉食のケトジェニックダイエット(イメージ画像の出典:by gurkanerol on Pixabay)


腸内のケトン体生成を促進するケトジェニックダイエットは、放射線または化学療法治療を受けているがん患者に発生する可能性のある腸内層の損傷の修復に役立つ可能性があることが示唆されています、とYilmaz氏は言います。

研究者らは現在、他の種類の組織の成体幹細胞がケトン体を使用してその機能を調節しているかどうかを研究する予定です。別の重要な問題は、ケトン誘発性の幹細胞活性ががんの発生に関連する可能性があるかどうかです。なぜなら、腸や他の組織の一部の腫瘍は幹細胞から生じるという証拠があるからです。

質問「ある干渉がある種の腫瘍の元になる細胞集団の幹細胞の増殖を促進する場合、がんのリスクを高める可能性があるでしょうか?」
「それは私たちが理解したいことです」とYilmaz氏は言います。
質問「これらのケトン体は腫瘍形成の初期段階でどのような役割を果たしており、食事や同じような活性を持つ低分子を介してこの経路を過度に動かし過ぎると、がんの形成に影響を与えますか?」
返答「 私達は質問の答えを知りません。」

この研究は、国立衛生研究所、V Foundation V Scholar Award、Sidney Kimmel Scholar Award、Pew-Stewart Trust Scholar Award、MIT Stem Cell Initiative、Koch Institute Frontier Research Program through the Kathy and Curt Marbleによって資金提供されましたがん研究基金、コッホ研究所ダナ・ファーバー/ハーバードがんセンター橋プロジェクト、および米国老化研究連盟。

ーーー 翻訳ここまで ーーー


引用ニュース&原著論文

🔵 英語ニュース:Study links certain metabolites to stem cell function in the intestine

🔵 原著論文 :Ketone Body Signaling Mediates Intestinal Stem Cell Homeostasis and Adaptation to Diet,(Cell , VOLUME 178, ISSUE 5, P1115-1131.E15, AUGUST 22, 2019 )

ケトジェニックダイエットの関連書籍

Seigoの追記

この研究はケトジェニックダイエットをしている(炭水化物をほとんど食べない)方にはとても朗報でしょう。

ケトジェニックダイエットによってケトン体が増えるとそれが腸の幹細胞を活性化して再生を促すそうです。

逆に炭水化物をたくさん摂ってしまうと、その逆の効果が現れ、腸の幹細胞は不活性となってしまい、ケトン体は生成されなくなってしまうそうです。

ケトジェニックダイエットの心配事

上記のプレスリリースで心配に思ったことは、次の記述です。
「ケトジェニックダイエットは、放射線または化学療法治療を受けているがん患者に発生する可能性のある腸内層の損傷の修復に役立つ可能性があることが示唆されています」
の箇所です。がん患者さんでトクに大腸がんの方は高脂肪食でその病気を患った可能性が高いのに、放射線や抗がん剤で腸が損傷を受けたからと行って高脂肪食を食べさせてしまったら、大腸がんがまたぶり返す可能性が高いのではないかと心配になってしまいました。

ケトジェニックダイエットが腸に良い効果をもたらす分子メカニズム

原著論文を読みますともう少し詳しい分子メカニズムが書いてありましたのでまとめておきます。

高脂肪食が腸に良い効果をもたらす分子メカニズム
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🔵 ケトン体は高脂肪食からHMGCS2という酵素を使って生成される
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🔵 ケトン体Notchシグナル伝達経路を活性化する
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🔵 Notchの経路が動くと、腸の幹細胞の自己複製が促され数が増える
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🔵 腸の幹細胞が増えると腸の損傷が改善される


やはり空腹(断食)は健康に良いのか!? (Cell 誌に断食の論文が2報連続)

先日にも断食が慢性炎症を抑える良い効果があることをお伝えしたが、実はこの論文ももともと断食で腸の幹細胞に良い効果があったことから見つかっています。

上記のプレスリリースでこういう記述がありました。

高齢マウス の幹細胞の機能は 空腹時 に強化され高脂肪食が腸内の幹細胞集団の急速な成長を刺激できることを以前に示しました。

つまり空腹時(断食状態)の時に幹細胞の機能が強化されたことが以前の研究で分かっていたことが記されています。今回はさらに高脂肪食でも空腹時と同じように腸の幹細胞の強化が認められたという興味深い報告でした。またもともと腸の幹細胞は自分でケトン体を作り出していて、ケトン体が高濃度の状態を維持しているようですから、他の幹細胞も同じような挙動するかが研究課題でしょう。

ケトジェニックダイエットと炭水化物ダイエットのエネルギー生成の違い

下の図は、私がケトジェニックダイエットの記事を書いたときのものです。糖質がなくなると右側のように中性脂肪がエネルギーとして使われ、そしてその一部がケトン体に変わってそれもエネルギーとして使われることを表しています。

左が炭水化物ダイエット、右がケトジェニックダイエットです。どのような経路でエネルギーが作られるか図解してあります。画像をクリック/タップすると拡大できます。[ Saito & Hasumi, 2015 ]の図を改変(分子構造はWikipedia Commonsより:Glycogen (Link), natural fat (Link), アセチル-CoA(ケトン体)(Link);ご飯&パンや炎などのイラスト:by さんぱち, 食べられる前頭葉, きな/イラストAC)

この図が使われたケトジェニックダイエットの記事はこちら ↓

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