がんの原因は遺伝子ではなくノンコーディングRNAの変異のためだった!? (2019年米国研究論文)

ニュース/レビュー

今日はノンコーディング遺伝子の突然変異はがんの調節に大きな役割を果たす可能性があるという研究についての報告です。

イリノイ大学がこの研究の要約をプレスリリース(英文)しましたので、それを翻訳したものをここでご紹介します。

ニュースタイトル「ノンコーディング遺伝子の突然変異はがんの調節に大きな役割を果たす可能性がある」

DNAのイメージ(出典:PublicDomainPicturesによるPixabayからの画像)


コードしていないと思われる遺伝子から転写されたRNAは、がんの制御に重要な役割を果たす可能性があると、新しい研究が示唆しています。

多くのこれらの非コードRNA断片は既知のがん遺伝子の隣にある、ということがその研究によって発見されました。非コードRNA断片がそれらのがん遺伝子とどのように相互作用するかを理解することは、がんの挙動を理解し治療するための新たな道を開くことができます。

イリノイ大学、細胞および発生生物学のKannanganattu Prasanth教授と研究者は特定の乳がん腫瘍抑制遺伝子が健康な細胞で機能するためにその反対のDNA鎖から転写されたRNAを必要とすることを見出しました。彼らはその成果をPLoS Genetics誌に発表しました。

遺伝子が発現されるときDNAの2本の鎖が別れ、1本の鎖がRNAに転写されます。次にRNAは核から出てタンパク質に翻訳されます。しかしRNA鎖のごく一部だけがタンパク質に翻訳されます。ノンコーディングRNAと呼ばれる残りの部分はかつては「ジャンク」と考えられていましたが、現在ではタンパク質をコードする遺伝子の発現調節など細胞内でいくつかの役割を果たすことが知られています。

DNAのイメージ(出典:geralt / Pixabay)


乳がん細胞における多くの変異が、ゲノムの非コード領域に起こることを私たちは知っています」とPrasanth教授は述べました。 「もしこれらの突然変異ががんの一因ではあるがタンパク質をコードしていない場合、それらは何をしているのでしょう?」

まず研究者らはトリプルネガティブ乳がんとして知られる乳がんの種類の細胞、および健康な乳房細胞におけるRNAの発現を分析しました。彼らは細胞が1,800を超える長さのノンコーディングRNAをどのように発現するかに有意な違いを見出しました。そのうち約500個は既知のタンパク質をコードする遺伝子とは反対のDNA鎖上の位置から転写されました。そのようなRNAはそれらがコーディングまたは「センス」DNAフラグメントとは反対側にある鎖から転写されるので「アンチセンス」と呼ばれます。

「いくつかのアンチセンスRNAは、それらの隣接タンパク質をコードする遺伝子との相関を示しました。これらのタンパク質をコードする遺伝子の中には、腫瘍進行において既知の機能を有するいくつかのがん関連遺伝子があります。」と、論文の筆頭著者であり最近Prasanth教授のグループを卒業したMahdieh Jadaliha氏は述べています。「これらのがん遺伝子とそれらのアンチセンスRNAとの間の相関関係は、これらのがん関連遺伝子の発現を調節することによって、RNAががんの進行において潜在的に機能し得るという手がかりとなり得ます」

腫瘍抑制遺伝子を安定化させるノンコーディングRNA

イメージ画像(出典:Photo by Louis Reed on Unsplash)


研究者らはPDCD4と呼ばれる、よく研究されている腫瘍抑制遺伝子に対するアンチセンスRNAに注目しました。これはトリプルネガティブ乳がん細胞ではどういうわけか不活性化されています。彼らは乳がん細胞で見られたPDCD4アンチセンスRNAの減少したレベルがPDCD4遺伝子不活性化に寄与することができるかどうか疑問に思いました。

PDCD4 RNAとそのアンチセンス対応物の両方の分子メカニズムを研究することにおいて、彼らはPDCD4遺伝子が正常な乳房細胞において機能するために両方が決定的に重要であることを発見しました。

「我々はPDCD4アンチセンスRNAタンパク質をコードするPDCD4 RNAに結合し、それが細胞内で分解されるのを防ぐことによってそれを安定化させることに気付きました」とPrasanth教授は述べました。

アンチセンスRNAがないと、PDCD4 RNAはタンパク質に翻訳される前に分解されました。この遺伝子はがん細胞が増殖するのを止めるというその役割を果たすことができませんでした。

PDCD4アンチセンスががん細胞培養で回復すると細胞の増殖は抑制され、細胞は移動や拡散ができなくなりました。

「これはPDCD4腫瘍抑制活性が低い患者において、PDCD4アンチセンスRNAを活性化することによってその活性を増加させる可能性があることを示唆しています。理論的には、がん細胞における腫瘍抑制因子の発現を増強することができるはずです」とPrasanth教授は述べました。

研究者らはPDCD4の例は遺伝子をコードしていないと思われる遺伝子の変異が、がんの機序や細胞内で遺伝子発現がどのように調節されるのかを理解する上でのギャップを埋めるのに役立つと述べています。 Prasanth教授のグループメンバーは、トリプルネガティブ乳がんにおいて何らかの役割を果たしている可能性があると彼らが確認したアンチセンスRNAについてもっと研究することを計画しています。彼らはまた、動物モデルでPDCD4とそのアンチセンスRNAの研究を続ける予定です。

「これは大きな問題の一部です」とPrasanth教授は言います。 「がんでは500種類のアンチセンスRNAが制御されていません。それらのうちの30〜40は、確立された腫瘍抑制因子およびがん遺伝子に対してアンチセンスであるように思われます。しかし他の460はどうでしょう?それらの機能を理解することによって、我々は新しいがん遺伝子または腫瘍抑制のための新しいメカニズムを同定することができるかもしれません。それは未知の領域であり、同時にやりがいのあることです。」

ーーー 翻訳ここまで ーーー


引用ニュース & 原著論文

🔵 英語ニュース:Mutations in noncoding genes could play big role in regulating cancer, study finds (University of Illinois Urbana-Champaign)

🔵 原著論文(オープンアクセス):A natural antisense lncRNA controls breast cancer progression by promoting tumor suppressor gene mRNA stability ( 2018 Nov 29)

Seigoの追記

ノンコーディングRNAとは?


難しい用語が出てきましたので、分かりやすいように模式図を書いてみました。

・コーディングRNAとは遺伝子をコードしているRNAのことで、これがタンパク質に変換されます。(図では上の部分に位置していて、右方向にタンパク質がコードされた遺伝子が並んでいます。)

・一方ノンコーディングRNAとは、これまで何をしているのかわからなかった、タンパク質に変換されないRNAです。今回の研究では同じ場所にある反対方向(アンチセンス)のRNAが、実は自分のコーディングRNAの分解するのを抑制していてがんになるのを防いでいたという、驚きの結果だったのです。

・これまでがんになる細胞は遺伝子の変異が見つかっていましたが、それはなぜかタンパク質に変換されるエクソンの領域ではなく、タンパク質に変換されないノンコーディングの領域でした。しかしこれではなでがん遺伝子の異常を説明できないでいました。しかし今回の発見により、ノンコーディングの領域でもそこにあるノンコーディングRNAがを受けてがん遺伝子の制御ができなくなってことが説明できれば、科学的に説明できるわけです。

これでまた1つ、がんが生じる仕組みが明らかになってきましたね!

関連記事一覧

  1. この記事へのコメントはありません。