高血圧の薬は新型コロナによるサイトカインストームを抑制する?【論文引用あり】

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新型コロナウイルスは細胞の表面にあるACE2(エースツー)という酵素に結合して細胞内に潜入しますが、ACE2と同じ働きをする酵素を微生物中に日本人が発見しました。それが新型コロナウイルスの重症化を防ぐ可能性があるかもしれないので、そのニュースをお伝えします。

後半では前回に引き続きサイトカインストームのお話です。ACE2はレニン-アンギオテンシン系という血圧を調節するシステム中に働く酵素ですが、このシステムはサイトカインと関係しているので、炎症性サイトカインが増えてサイトカインストームの危険が出てきます。今回の新型コロナで高血圧の方がACE阻害剤を飲んでいるにもかかわらず(ACE阻害剤はサイトカインストームを抑えるかもという研究もありますが)、サイトカインストームが多いという逆のデータも中国から出ているようですのでご紹介します。

ACE2と同じ働きをする微生物の酵素の分離に成功

新型コロナウイルス受容体ACE2と同じ機能を持つ微生物酵素B38-CAPを発見

弊所の今井由美子プロジェクトリーダー ならびに秋田大学大学院医学系研究科の久場敬司教授は、国際農林水産業研究センター、秋田県総合食品研究センター等と共同で、白神山地の土壌から分離した微生物の産生する新しい酵素B38-CAPがヒトのアンジオテンシン変換酵素2(ACE2)蛋白質の構造とよく似ており、生体内でACE2と同等の薬理活性を示すことにより心不全や高血圧の症状を改善することを明らかにしました。
また、最近ACE2は現在流行している新型コロナウイルスの受容体であることが報告されましたので、B38-CAPには、ACE2同様に新型コロナウイルス感染に対して、特に心不全などの基礎疾患を有するヒトの重症化阻止効果のあることが期待されます。

本研究成果は2020年2月26日午後7時(日本時間)に国際科学雑誌『Nature Communications』の電子版に掲載されました。

医薬基盤研究所(NIBIO)のお知らせ, 2020年3月3日より

この新しい酵素はアンギオテンシンIIを切る働きがあるということで、サイトカインストームも抑えられる見込みがでてくると考えられます。アンギオテンシンIIが増えると炎症性サイトカインが増えるので、アンギオテンシンIIが切れて減ってしまえば、サイトカインが減るだろうということです。

複雑なシステムですが、ACEのところだけ簡単に書くとこんな感じです。

アンギオテンシン1→ACE✂️→アンギオテンシンII→ACE2✂️→アンギオテンシン1−7

※ ただしACE阻害剤のように逆効果になる場合もある(サイトカインストームを抑えるどころか悪化する場合もある)ので、高血圧の基礎疾患のある方は(さらに新型コロナに感染してしまった場合は)医師と相談して薬の処方に注意して下さい。)

レニン-アンジオテンシン系とサイトカインストームの関係

レニン-アンギオテンシン系はサイトカインと関係があるので、サイトカインストームに降圧剤が使えるかもしれないというのは理論的に合っていますが、

ACE阻害薬アンジオテンシンII受容体拮抗薬 (ARB)が、重度のインフルエンザによるサイトカインストームの治療に有効である可能性があるという直接的な証拠は示されていません。

ただしこれらの薬はアンジオテンシンIIによって引き起こされる炎症反応を抑え急性肺損傷のいくつかの実験モデルでマウスの生存率を上げることが示されています [56]。さらに臨床試験では、これらの薬剤が肺炎および肺炎に関連する死亡のリスクを軽減できることも確認されました[57]。
※ 参考文献[30]より

上記以外のポイントを以下に整理:

🔵 2003年に、血清中ACE濃度がサイトカイン関連の炎症性肺疾患の評価に有用なマーカーであることが示される[27]。

🔵 アンジオテンシンIIもサイトカイン関連肺障害に関与していることが示されており[28]、ACE阻害薬が有用である可能性が示唆される。

🔵 サイトカイン性肺障害(肺上皮細胞のアポトーシス)はTNF-α(炎症性サイトカイン)が引き起こしているが、その機序にはアンジオテンシンIIが必須であり、ARBの通常量投与でアンジオテンシンIIの生成を阻害することで臨床的に有効な効果がもたらされ得ることが示されている[29]。

🔵 ACE阻害薬ARBをサイトカインが関連する多くの炎症性病態に用いた結果のレビューが公表され、ACE阻害薬およびARBは理論的にもサイトカインストームを抑制し得るとされた[30]。(ウィキペディアより抜粋「サイトカイン放出症候群」)

ACE阻害薬はサイトカインストームに悪い?

ACEの阻害効果のある「薬剤」を高血圧の治療に処方されている方は、逆に新型コロナウイルスで重症化しやすく、サイトカインストームを発症する確率が高いという一件矛盾したデータもあるようです。

これはもともと高血圧のような基礎疾患があるからとも考えられますが、抗炎症作用のある鎮痛剤「イブプロフェン」で重症化するというフランスからの報告からも、抗炎症作用のある薬剤が原因なのかもしれません。

・ACE阻害薬を処方している高血圧患者の方が新型コロナウイルスで重篤になるケースが多いというニュースがありました。

参考にした2つのニュース:
🔵 新型肺炎、高血圧が最も危険(米国の大手通信社より)(2020年3月10日

🔵コロナウイルスにかかったら飲んではいけない薬:フランスの厚生大臣が発表 [Yahooニュース](2020年3月19日

どうやら降圧剤の服用でサイトカインストームを治そうとするのは難しいかもしれませんね。

また免疫系の活力を下げるような対症療法(イブプロフェンやコルチゾン)の多用はサイトカインストームを起こす原因になっているかも知れませんね。追加情報がありましたらまたお伝えします。

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