サーチュイン6遺伝子のDNA修復能が高ければ高いほど長寿になる!?(2019年論文)
ニュース/レビュー
今回はサーチュイン遺伝子による長寿の仕組みを解き明かしていきましょう。
ロンチェスター大学が最新研究をプレスリリース(英文)しましたので、それを翻訳したものをご紹介させていただきます。
この記事のもくじ
ニュースタイトル:より効率的なDNA修復を担う「長寿遺伝子」
探検家たちは何世紀にもわたり、若返りと永遠の命を約束する「青春の泉」を夢見てきました。そしてついにロチェスター大学の研究者たちは、長寿の鍵が代わりに遺伝子にあるという多くの証拠を発見しました。
Cell 誌に掲載された論文で、生物学のVera Gorbunova教授とAndrei Seluanov教授、生物医学遺伝学のDirk Bohmann教授のチームは、サーチュイン6(SIRT6)遺伝子が、より長い寿命を持つ種において、より効率的なDNA修復に関与していることを発見しました。この研究は、アンチエイジングに役立つ新しい標的を見出し、また加齢に伴う疾患の予防に役立つ可能性があります。
避けられない二本鎖切断
ヒトを含む哺乳動物では、年をとるにつれDNAは壊れやすくなり、それが遺伝子の再構成や突然変異につながると同時に、ガンや老化の状態を証拠づけるものともなります。そのため、研究者たちは長い間、DNA修復する機能が生物の寿命を決定するのに重要な役割を果たすと考えてきました。DNAの二本鎖切断(DSB)を悪化させる行為として喫煙などがありますが、そうした行為を排除したとしても、DNAの切断を無くすことはできません。
Bohmann教授は次のように述べています。
「どんなに健康であったとしても、DNA二本鎖切断は必ず生じています。DSBの主な原因の一つは酸化によるダメージです。我々は生きるために酸素を必要とし、息を止めることはできません」
マウスのような生物は、比較的短命のため、寿命が長い生物と比較して二本鎖切断を蓄積する可能性が低いとBohmann教授は述べています。
「50年くらいは生きていたい、と思ったら、DSBを修復する機構が必要になります」
長寿遺伝子
SIRT6は、切断されたDNAを修復するために必要なタンパク質の構築や、酵素の移動に重要な役割を果たすため「長寿遺伝子」と呼ばれています。SIRT6遺伝子を欠損したマウスは早く老化し、過剰に発現するマウスは長生きします。研究者らは、より長い寿命のためにより効率的なDNA修復が必要とされるならば、より長い寿命を持つ生物は、より効率的なDNA修復調節因子を進化させたかもしれない、と仮定しました。SIRT6活性は長寿命種において増強されているのでしょうか?
この仮説を検証するために、研究者らは寿命の範囲が3年(マウス)から32年(ハダカデバネズミとビーバー)にわたる18種類のげっ歯類のDNA修復を分析しました。その結果、より長い寿命のげっ歯類において、SIRT6遺伝子の産物であるSIRT6タンパク質の機能が強力であるがゆえに、より効率的なDNA修復が起きていることがわかりました。つまり、SIRT6はすべての種で同じではなく、寿命の長さと共に進化しており、効率的で機能が強くなったSIRT6を有する種ほど、長生きするようになったのです。
「SIRT6タンパク質は寿命を決める決定的な因子であるようです。細胞レベルではDNA修復がうまく機能し、生物レベルでは寿命が延びることを示しています」
次に研究者らは、マウスに見られる弱いSIRT6タンパク質と、ビーバーに見られる強いSIRT6タンパク質の、分子レベルの違いを分析した結果、強いSIRT6タンパク質に必要な5つのアミノ酸を同定しました。
「DNA修復の活性が高くなり、酵素の働きもよくなります」とGorbunova教授は述べています。
ビーバーとマウスのSIRT6遺伝子をヒト細胞に導入したところ、ストレスによって生じたDNA損傷を抑制する作用は、マウスSIRT6よりビーバーSIRT6の方が高いことがわかりました。両者の遺伝子をショウジョウバエに導入したところ、ビーバーSIRT6遺伝子を導入した方が長生きでした。
もっと強いSIRT6を持つ生き物は?
ヒトSIRT6はすでに最適化された機能を有するように見えます。
しかし、Seluanov教授は、「もっと長生きな生き物がいますから」と話しています。
ヒトより長い、例えば200年以上の寿命を持つホッキョククジラなどでは、もっと機能の高いSIRT6に進化しているかどうかを解明することが、今後の課題です。
最終的な目標は、ヒトの加齢性疾患を予防することである、とGorbunova教授は言います。
「加齢とともに変異するDNAが原因で疾患が発生するのであれば、このような研究が進むことで、ガンやその他の退行性疾患の発症を遅らせるための方策を立てることが可能になるはずです」
ーーー 翻訳ここまで ーーー
引用ニュース & 引用文献
🔵 英語ニュース:‘Longevity gene’ responsible for more efficient DNA repair(U. of Rochester, Newscenter)April 19, 2019
🔵 原著論文 : SIRT6 Is Responsible for More Efficient DNA Double-Strand Break Repair in Long-Lived Species.
Cell. 2019 Apr 18;177(3):622-638.e22. doi: 10.1016/j.cell.2019.03.043.
Xiao Tian, Denis Firsanov, ・・・Andrei Seluanov, Vera Gorbunova
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Seigoの追記
動物の寿命が延びると共にサーチュイン6(SIRT6)遺伝子も進化してきたと研究者はいっております。SIRT6のDNA修復能力が高ければ高いほど長寿になるという傾向が発見されたそうで、研究者は次に人間よりも長寿なホッキョククジラ(200年以上の寿命)のSIRT6遺伝子を調べて、有望ならばヒトの細胞に導入していて寿命が延びるか試すそうです。
う〜ん、久しぶりにワクワクする研究に出会いました。うまくいくといいですね〜 😀
これまで予測されていたSIRT6の機能・役割まとめ
🔵 人のがんの約2割でSIRT6が欠損している🔵 SIRT6は解糖系を抑制する
🔵 基礎実験からSirt6の予測された機能
・NF-kBターゲット遺伝子の抑制 (Kawahara et al., 2009 #220)
(NF-kBと結合し、そのターゲットを脱アセチル化して転写を抑制させる)
・テロメアの安定化
・DNA修復への寄与 (Kaidi et al., 2010 #221; Mao et al., 2011 #222)・
🔵 ヒト繊維芽細胞では
・SIRT6の抑制はNF-kB非依存的に細胞老化を誘導(テロメアの傷害を通じて細胞老化を起こす)
🔵 Sirt6を強制発現させたマウス
・IGF-1濃度が低下し、IGFBP1は増加
🔵 Sirt6 KOマウス (Sirt6がなければ早老の症状が出現)
・低血糖や成長の遅延、低インスリン、リンパ球の減少、皮下脂肪の減少、骨密度の低下、脊柱後弯症、その他早老のいくつかの表現型が見られた
・これらの表現型はp53の抑制による影響を受けない
(参考資料:老化の生物学 覚え書き、6.3 Sirtuin)
20余年アメリカで遺伝子治療&幹細胞の研究者をやってきました。
特に遺伝病の間違った遺伝子をピンポイントで修復し、元に戻す技術開発です。
理学博士(Ph.D. )
アメリカ生活で学んだアンチエイジングなど健康に関する知識をシェアしたいと思います。
巷の情報もご紹介、時にはブッた斬ったりしてしまうかもしれません。
またポイントなどの節約術や生活に便利なガジェット(スマホやアプリの紹介)も記事にしますので参考になれば嬉しいです。
皆さん、ご一緒に「究極のヘルシーライフ」を楽しみましょう♪
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