長距離ランナーが多くもち持久力を上げてくれる腸内細菌が判明!?(Nature Medicine誌)
ニュース/レビュー
トップアスリートは腸内フローラの種類が普通の人とは違うことが発見され、実はある菌が多い事が特定されました。またその腸内細菌を室内ワーカーに移植すると、運動能力の向上が見られたというのですから驚きです。
この研究はハーバードメディカルスクールに属するジョスリン糖尿病センターで行われ論文はNature Medicine 誌に発表されました。またそのプレスリリース(英文)も同時に発表されましたので、ここではそれを翻訳してご紹介します。(翻訳のプロではないので読みづらかったらすみません。)
この記事のもくじ
一流の運動選手によく見られるパフォーマンスを上げてくれる腸内細菌
この細菌を座りがちな人に導入すると、運動能力が向上します
新たな研究で、一流選手の腸内フローラに存在している運動能力の向上をもたらすタイプの細菌を特定しました。この細菌はベイヨネラ (Veillonella) 属の一種で、デスクワークが多い人々の腸には見られないものです。ジョスリン糖尿病センター(Joslin Diabetes Center)の研究者らは、細菌を詳しく調べた結果、運動によって産生された乳酸をベイヨネラ菌が代謝し、それを短鎖脂肪酸であるプロピオン酸に変えることを確認しました。それからプロピオン酸は人体の運動能力を向上させるために利用されます。この研究結果は2019年6月24日の Nature Medicine 誌に報告されています。
「高い運動能力を持つことは、全体的な健康増進や心血管疾患・糖尿病予防、そして総合的な長寿への強い予測因子になります。私たちが思い描いているものは、有意義な運動能力を高め、それで糖尿病などの慢性疾患を予防するような、みんなが摂れるプロバイオティクスのサプリです。」と病態生理学および分子薬理学セクションの研究助手であり、この研究論文の共同執筆者であるAleksandar D. Kostic, Ph.D.はこのように言及しました。
「私たちが考えているのは、人々が摂取できるプロバイオティクスサプリメントであり、有意義な運動を行う能力を高め、したがって糖尿病などの慢性疾患を予防します。」
Aleksandar D. Kostic, Ph.D(病態生理学および分子薬理学セクションの研究助手)
調査方法
この研究は2015年にボストンマラソンランナーの検便から始まりました。ハーバード大医学部George Church, Ph.D.研究室のJonathan Scheiman, Ph.D.は、マラソン前の1週間から終了後1週間の間に検便サンプルを収集しました。また彼はデスクワーク系の人々からもサンプルを集めました。その後、Dr. Scheimanはサンプルを持っていきDr. Kosticは両コホートでこの種の細菌を特定するために分析しました。「すぐに私たちの注意を引いたものの一つは、単細胞生物のベイロネラ菌で、マラソン直後のランナーには明らかに多かったことでした。また、ベイロネラ菌はデスクワーク系の人々よりも、(一般的に)マラソンランナーにより多いです」とDr. Kosticは述べています。
彼らはマウスで運動能力の向上との関連を確認し、ベイロネラ菌を食べた後に走る能力のはっきりとした増加がありました。次に彼らはそれがどのように機能するのかを解き明かしたいと思いました。
「ベイロネラ菌について深く掘り下げ、わかったことは乳酸塩や乳酸を唯一の炭素源として使うという点で、ヒトの腸内細菌としては比較的特殊であるということです。」と彼は言います。
乳酸は激しい運動中に筋肉で作られます。ベイロネラ細菌はこの運動からの副産物を主な食料源にできるのです。
「とりあえずの仮説として、筋肉中に乳酸がたまると疲労を起こすという考えがあり、システムから乳酸を除去するというものでした。筋肉に乳酸が蓄積すると疲労を引き起こすという考えです」。しかしジョスリンのSarah Lessard臨床研究員や他の運動生理学分野の人々と話してみると「明らかに乳酸蓄積が疲労を引き起こすというこの考えが真実であるとは認められません。それでこのメカニズムがどうして起こっているかについて再び考えさせてくれます。」と彼は言います。
Dr. Kostic チームは研究室に戻り、何が運動能力の向上を引き起こしているかを解明しました。彼らはメタゲノム解析を行い、腸内フローラ全体の遺伝子を追跡し、ベイロネラの乳酸代謝によって引き起こされた事象を特定しました。彼らは乳酸を短鎖脂肪酸プロピオン酸エステルに変換するのに関係する酵素が、運動後にはるかに多いことに注目しました。
「それで疑問はたぶん乳酸の除去ではなく、プロピオン酸エステルの生成ではないかということでした。私たちはマウスにプロピオン酸塩(イオン化した液体)を(浣腸で)入れていくつかの実験を行い、走る能力の向上に十分であるかどうかを調べました。そしてその通りでした。」と Dr. Kosticは言いました。
Dr. Kosticのチームは、プロピオン酸エステルが運動能力に影響するメカニズムをLessard博士と共同で調査することを計画しています。
私たちの腸に住む細菌たちは健康に強く影響を与えます。運動は2型糖尿病などの病気を防ぐヘルシーなライフスタイルの重要な要素です。代謝病を持つ多くの人々は(上記のような細菌からの)利点を得るのに必要なだけの十分な運動ができません。
ベイロネラ菌を含むプロバイオティクスのカプセルを摂れば、運動の効果を高めてくれます。(短鎖脂肪酸は効く前に消化液で分解されるので、プロピオン酸の錠剤を直接摂るのはダメでしょう。)Dr. Scheimanはアスリートをターゲットにした企業にこのアイディアを渡しました。
「腸内フローラは実に強力な代謝のエンジンです」と Dr. Kosticは言います。「これは細菌とヒトとの共生の強固な例を直接示した最初の研究の1つです。」
「それはとても明確です。良いフィードバック・ループを作り出すということです。宿主はこの特殊な細菌が好むものを作ります。そして代わりに、この細菌は宿主に利益になるものを作ってくれるのです。これは腸内フローラが人という宿主の中で、共生的な存在になる方法をどのように進化させたかの本当に重要な例なのです。」
ーーー 翻訳ここまで ーーー
引用ニュース & 原著論文
🔵 英語ニュース:Performance-enhancing bacteria found in the microbiomes of elite athletes (Joslin Diabetes Center)JUNE 24, 2019🔵 原著論文 : Meta-omics analysis of elite athletes identifies a performance-enhancing microbe that functions via lactate metabolism.(Nature Medicine, 2019)
Seigoの追記
原著論文のアブストクトに上記のレビューでは書かれていないことがありますので、それらを合わせて以下にまとめました。マラソンランナーが多くもつ細菌:Veillonella atypica
アスリートがマラソンをした後に増えていた菌はベイヨネラ (Veillonella) 属の atypica(アティピカ) でした。ベイヨネラ (Veillonella) 属の菌は口内を扱う歯科では有名で、歯周病の原因となるバイオフィルム形成にこの菌が大きく関わっていると言われていました(参考資料:PDF書類)。
今回の発表に戻りますが、なんとこの菌を運動不足のマウスに移植したところ持久力の向上がみられたということなので、運動する時間がない人で元気のない方は、もしかしてこの菌を自分の腸に取り入れれば元気になってしまう可能性が出てきたわけです ♫
実はベイヨネラ (Veillonella) 属の菌は乳酸からしか炭素の栄養源を得ることができないそうなのです。そこで筋肉から発生した乳酸を積極的に取り入れてエネルギー源にしているようなのです。
ベイヨネラ菌が乳酸を代謝するとプロピオン酸ができる→運動能力アップ
ベイヨネラ菌がエネルギーの材料として乳酸を取り入れて代謝すると、プロピオン酸が発生して、実はこの物質が運動能力を高めていることが分かりました。このプロピオン酸をマウスの直腸に注射するだけで、運動能力は上がるそうなので、将来運動選手が自分の体力をブーストするために、この物質を欲しがるかも知れませんね。
ただし、プロピオン酸をサプリとして摂っても、消化液で分解されてしまいますので、口から摂るには工夫が必要です。
筋肉で発生した乳酸は腸まで運ばれて代謝される
ジョスリン糖尿病センターの研究者は、乳酸が本当に筋肉や血液中から腸内へ運ばれてくることを、乳酸に放射線標識をつけて実際に確かめました。血清乳酸は、実際に腸の上皮バリアを通過して腸の内腔へと移動するのを認めました。このことは私たちの常識を覆しました。栄養素が腸から体内へ移動するのが普通で、その逆はあり得ないと考えていたからです。
このことにより、昔から不思議に思っていた謎も解けるのではないかと思えてきました。例えば「宿便」です。デトックスをしていると腸からとんでもない色や形をした便が出てくることがありますが、それはレントゲンにももともと写りませんし、解剖してもそんなものは見つからないのです。しかしもしかすると宿便は実は腸にあった物ではく、デトックス作用で体の至る所にあった老廃物が腸に集まってきて固まった可能性が出てきたのです。実は腸というのは栄養素を吸収するだけではなく、排出にも大きな役割を果たしている可能性が出てきたわけです。
腸はやっぱり素晴らしいな〜。生命の中心は腸なのかも知れませんね。
これは腸大事ですー! 😄
腸内フローラの関連書籍
20余年アメリカで遺伝子治療&幹細胞の研究者をやってきました。
特に遺伝病の間違った遺伝子をピンポイントで修復し、元に戻す技術開発です。
理学博士(Ph.D. )
アメリカ生活で学んだアンチエイジングなど健康に関する知識をシェアしたいと思います。
巷の情報もご紹介、時にはブッた斬ったりしてしまうかもしれません。
またポイントなどの節約術や生活に便利なガジェット(スマホやアプリの紹介)も記事にしますので参考になれば嬉しいです。
皆さん、ご一緒に「究極のヘルシーライフ」を楽しみましょう♪
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