C型肝炎薬DAAによる副作用:肝臓がんの再発頻度上昇は認められなかった(2019年米国論文より)
今回は肝がん患者にC型肝炎感染症の可能な治療についての報告です。
米国UTサウスウェスタンメディカルセンターの最新研究が発表されましたので、それを翻訳したものをここでご紹介します。
ニュースタイトル「肝がん患者にC型肝炎感染症の治療は可能です」
複数の研究機関による大規模な共同研究が、抗ウイルスC型肝炎治療剤は肝がんの再発率を高める可能性があるという以前の説に反論を唱えています。UTサウスウェスタンメディカルセンター(UT Southwestern Medical Center)の研究者は、北米31ヵ所のメディカルセンターで肝がんの治療に成功した患者の記録を調べ、C型肝炎に対して直接作用型抗ウイルス薬を投与された患者と与えられなかった患者と比較しました。 肝がんの再発については、この2グループ間で大きな違いはありませんでした。
同様にこの研究から、再発を経験した患者間でがんの攻撃性に差がないことが見出されました。
同メディカルセンターにおける肝腫瘍プログラム(Liver Tumor Program)の助教授兼内科薬事医療部長(Associate Professor of Internal Medicine and Medical Director)、アミットシンガル博士(Dr. Amit Singal)は、「私たちの研究は、2016年のスペインの研究者による1つのセンターの研究に影響をうけました。その研究は、マスコミの大きな注目を浴び、肝がん患者に対するC型肝炎の治療に恐怖を呼び起こしました。」として、「これら(私たちの研究における)新しいデータに基づいて、医療提供者はこれらの患者のC型肝炎を治療し、C型肝炎治療の既知の利点を享受することが安全であると安心できるでしょう。」と述べています。
米国では約320万人もの人々(その大多数はベビーブームの世代)が、慢性C型肝炎を患っています。これらの人々の多くは、肝炎および肝機能障害、ならびに肝硬変、または肝組織の瘢痕化に苦しんでいます。2013年以来、C型肝炎感染の治療に有効な抗ウイルス薬が利用可能になっています。
慢性C型肝炎も肝がんの主要な原因の一つです。疾病管理予防センター(the Centers for Disease Control and Prevention)によると、肝がん患者の半数が慢性C型肝炎に感染しています。
肝臓がんの新たな症例の発生率はここ数十年間で着実に上昇しており、テキサス州は全米で最もその発生率高い州の一です。
肝がんは早期に診断された場合は、手術、切除、または放射線療法で効果的に治療することができます。肝がん患者の腫瘍の摘出に成功した場合もありますが、根元にある慢性C型肝炎感染が残り、それがさらに肝機能を損ない続けます。
この研究では、Gastroenterology 誌に掲載されましたが、直接作用型抗ウイルス剤(DAAs)で治療を受けた肝がん生存者の内、がん再発を経験したのは42パーセントであったのに対し、その治療を受けなかった場合は同様に59パーセントでした。
臨床がん研究科教授(Professorship in Clinical Cancer Research)で、肝臓医学臨床科主任(Clinical Chief of Hepatology)のデビッドブルートンジュニア(David Bruton, Jr.)を擁するシンガル博士は、「私達の研究の結果から、肝がんにかかったことのあるC型肝炎感染患者において、DAA療法は安全で潜在的に有益であることを示唆されます」と述べています。
彼らの他に、サウスウェスタンメディカルセンターでこの研究に貢献したメンバーは、内科助教授のニコルE.リッチ博士(Dr. Nicole E. Rich)と臨床科学助教授のケイトリンマーフィー博士(Dr. Caitlin Murphy)です。
シンガル博士はハロルドC.シモンズ総合がんセンター(Harold C. Simmons Comprehensive Cancer Center)のメンバーです。シモンズがんセンターは、米国に49あるNCI指定総合がんセンター(NCI-designated Comprehensive Cancer Centers)の1つであり、ノーステキサスでは唯一斯く指定されたセンターです。
この研究のための資金は国立がん研究所(National Cancer Institute)とアッヴィ社(AbbVie Inc)から提供されたものです。シンガル博士はここの諮問委員会の委員であって、ギリアド社(Gilead)とアッヴィ社から活動資金の支給を得ています。彼は以前ギリアド社の広報部門に所属していました。この研究とは無関係ですが消化器病分野にも名前が挙げられています。
UTサウスウェスタンメディカルセンターについて
米国で最も優れた学術医療センターの1つであるUTサウスウェスタンセンターは、先駆的な生物医学研究と卓越した臨床ケアおよび教育を統合しています。同機関の所員は6つのノーベル賞を受賞しており、全米科学アカデミーの22名のメンバー、全米医学アカデミーの17名のメンバー、および15名のハワードヒューズ医学研究所の研究者が含まれています。2,700人以上の所員が画期的な医学の進歩を担当し、科学主導の研究を新しい臨床治療に迅速に変換することを約束しています。ユタ州南西部の医師は、105,000人以上の入院患者、約37万人の緊急治療室の症例に対して約80の専門分野でケアを提供し、年間約240万人の外来診療を監督しています。
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ー ー ー 和訳おわり ー ー ー
引用ニュース & 原著論文
🔵 引用ニュース(英語):Liver cancer patients can be treated for Hep C infection (Eurekalert)🔵 原著論文:Direct-Acting Antiviral Therapy Not Associated With Recurrence of Hepatocellular Carcinoma in a Multicenter North American Cohort Study( Gastroenterology,2019)
C型肝炎に関する書籍
Seigoの追記
この論文の報告を簡単にまとめると、🔵 DAAと呼ばれる抗ウイルスC型肝炎治療剤はウイルスを除去するには有効であるが、肝臓がんの再発率は、むしろDAAで治療した患者のほうが上がっているのではないか?(2016年のスペインの報告)
🔵 この報告が正しいかどうかを、北米の31ヵ所のメディカルセンターで2013年1月〜2017年12月までの間(原著論文の要約より)で統計を調べると、DAAで治療した患者としてない患者で、肝臓がんの再発率は
肝臓がんの再発率
DAAで治療した患者: 42%
DAAで治療しなかった患者: 59%
この論文で言いたいことはDAA治療をしても肝臓がんの再発率は上がるわけではないということでした。
私は上の再発率を見た時、平均50%なのでどちらも高くてビックリしましたが・・・
日本でのDAA治療のレビュー(総説)を見たい方は、こちらから無料で見られますのでご参考までに:
– C型慢性肝炎治療の進歩, 竹原徹郎 著, 日本内科学会雑誌巻, 105:112~118,2016(J-Stage)
この日本語レビュー記事の中で竹原先生は
ウイルスが排除されると,患者は安心しそれまでの定期的な経過観察が行われなくなることがある。そうなると,それまでで あれば早期に診断されていた肝癌が,自覚症状が出て初めて気づかれるようになり,診断時に は根治的な治療の適応でなくなることがある。
患者さんはウイルスがDAAという薬で除去されると、安心してあまり診断に来なくなり、今度 発見された時には肝臓がんが手後れになることが多いそうです。
ウイルスはなくなっても肝疾患自体が治っていない場合が多く、油断していると、また再発して手後れになるのです。
またDAAは抗ウイルス薬としては優秀ですが、耐性ウイルスもできやすくなるという報告もあるので気をつけなくてはいけないとのことです。
薬に頼らず、しっかりと肝臓の調子を整えることも大切なようですね。
20余年アメリカで遺伝子治療&幹細胞の研究者をやってきました。
特に遺伝病の間違った遺伝子をピンポイントで修復し、元に戻す技術開発です。
理学博士(Ph.D. )
アメリカ生活で学んだアンチエイジングなど健康に関する知識をシェアしたいと思います。
巷の情報もご紹介、時にはブッた斬ったりしてしまうかもしれません。
またポイントなどの節約術や生活に便利なガジェット(スマホやアプリの紹介)も記事にしますので参考になれば嬉しいです。
皆さん、ご一緒に「究極のヘルシーライフ」を楽しみましょう♪
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