研究の再現性が取れない理由の1つが明らかに! (イェール大学の調査報告)
ニュース/レビュー
今日は調査によって、研究に使用される標準的なヒト由来の培養細胞で幅広い違いが見いだされたという報告です。
イェール大学が Nature Biotechnology 誌に発表した研究内容のレビュー(英語)を翻訳してみましたので、ここにご紹介します。
この記事のもくじ
ニュースタイトル「調査によって研究に使用されるヒト細胞株間で幅広い違いが見いだされた」
2016年にNatureが実施した調査によると、研究者の70%以上が他の科学者の実験を再現できませんでした。研究結果に再現性がなければ、たとえ重要な発見だとしても人の医療に役に立つことはありません。
Yaleの研究者Yansheng Liu氏によると、この「再現性の危機」の1つの原因は、異なる研究室で使用されている細胞株の間の著しい違いにあると思われます。
この問題を調査するために、Liu氏と国際的な科学者チームは世界6ヵ国以上の12以上の研究所から、HeLa細胞として知られるヒト癌細胞株のサンプルを集めました。
1950年代初頭に樹立されたHeLaは、最も古く最も一般的に使用されているヒト細胞株です。
彼らは異なるHeLa細胞を均一な条件下で培養し、最先端のプロテオミクス法やその他の大規模解析を用いて、遺伝子発現、増殖速度、タンパク質機能などの因子を経時的に観察しました。
さらに研究チームはサルモネラ感染に対する細胞株の反応を調べるための実験を計画しました。
研究チームは、異なるHeLa細胞株、特にHeLa CCL2とHeLa Kyotoとして知られている株間で、またその中でも大きな違いがあることを発見しました。
変異は遺伝子およびタンパク質の発現、ならびに感染に対する細胞の応答において明らかでした。
ある特定の株では、研究者らは初期の細胞とその後3ヵ月の増殖後に調べたものとの間で遺伝子発現の最大7%の差を観察しました。
これらの調査結果は、研究者が研究結果に対するこの変動の影響を最小限に抑えるための対策を講じる必要があることを強調しています。
彼らは例えば研究で使用された特定のHeLa細胞株のタイプを報告することを推奨しています。
他の戦略の中でも、Liu氏と彼の同僚はまた、初期の細胞株の使用、細胞の基本的なゲノム発現の記録、そして再現性を確実にするために、異なるサンプルまたはモデルまたは実験室での細胞の試験を繰り返すことを強く勧めています。
引用ニュース & 原著論文
🔵 英語ニュース:Study finds wide variation between human cell lines used for research (Yale University)🔵 原著論文:Multi-omic measurements of heterogeneity in HeLa cells across laboratories (Nature Biotechnology volume 37, pages314–322 (2019))
Seigoの追記
人の細胞は培養がとても難しいと思います。しかし研究者の70%以上が再現できないとは、由々しき問題ですね。
どこからもらった細胞をどうやって培養したかなど細かく正確に論文に載っていることが大事だと思います。
そして何回か繰り返して再現性を確かめることも忙しすぎて意外とやってない場合が多いのも困りますね。
基本的に培養しすぎる(継代しすぎる)と細胞は最初の性質を失う
私もいろんな細胞を培養しましたが、実験室で培養すればするほど(培養期間が1ヵ月以上を超えたり、継代が10回以上になると)細胞は遺伝子の変異が増して、最初の性質と違っている場合が多いことを経験しました。私たちは体から細胞を取り出してシャーレの上で増えてくれる細胞を研究に使っているわけですが、増えてくれない細胞は実験として使えません。
上記のような研究で使われている培養細胞は細胞分裂を容易にしてくれるある種、異常な細胞たちです。
Hela細胞ももともとはがん細胞由来で、増えやすいからこそ便利なので、世界中で使われるようになったのですが、培養期間を長くすればするほど、最初の性質をどんどん失っていくものです。
特にがん細胞ならなおさら正常ではないのですから、細胞分裂に過度な負担がかかり、正常を維持していく装置が外れ、遺伝子変異が蓄積して、タンパク質の発現も正常なパターンからどんどん変わってしまいます。
ですので、一般的に研究室同士で同じ結果を出したいのなら、できるだけ培養期間が短いものを選び(手に入れ)、短期間に実験を終わらせることが成功するコツなのです。
最後に細胞の性質を言っておきますが、細胞を遺伝子の変異を少なくして正常のまま培養したいのであれば、一番良いのは動物の体内で培養するのが、なぜか一番いいのです。
これは私たち研究者がまだ気づいていない何かの大切な条件の違いが、体内とシャーレの間に存在してるのです。
医学や科学が進歩したとはいっても「生命の神秘」はトップの科学者がいつも感じている事だと思います。
関連書籍
次の本の第2話にはHeLa細胞の話が出てきます↓20余年アメリカで遺伝子治療&幹細胞の研究者をやってきました。
特に遺伝病の間違った遺伝子をピンポイントで修復し、元に戻す技術開発です。
理学博士(Ph.D. )
アメリカ生活で学んだアンチエイジングなど健康に関する知識をシェアしたいと思います。
巷の情報もご紹介、時にはブッた斬ったりしてしまうかもしれません。
またポイントなどの節約術や生活に便利なガジェット(スマホやアプリの紹介)も記事にしますので参考になれば嬉しいです。
皆さん、ご一緒に「究極のヘルシーライフ」を楽しみましょう♪
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