糖質制限で死亡リスクが減少? ランセットの論文はなにを調べたのか?

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2017年に発表されたランセットの論文の日本語ニュースを見ていますと、糖質制限に決着がついたなどとの論評が見受けられましたが、この論文では糖質制限のことは語っておらず、逆に糖質が多すぎると死亡リスクが上昇するという報告でした。

そして18ヵ国を調べたのですが先進国はカナダ1ヵ国だけで、ほとんどは発展途上国でした。

情報がねじ曲がって伝わっている可能性がありますので、ここで少し整理していきたいと思います。

ランセットのデータはアメリカ人や日本人は入っていない

調べられた国

18ヵ国
高所得国(カナダ、スウェーデン、アラブ首長国連邦)
中所得国(アルゼンチン、ブラジル、チリ、中国、コロンビア、イラン、マレーシア、パレスチナ自治区、ポーランド、南アフリカ、トルコ)
低所得国(バングラデシュ、インド、パキスタン、ジンバブエ)

⭐️ つまりこの調査は、先進国はあまり含まずほとんど開発途上国のデータと言えるでしょう。なぜ先進国を入れなかったのかよく分かりません。(統計上の結果を出すために国を選んだ可能性あり?)

調べた人数

35~70歳の13万5,335例(人)

調べた期間

2003年1月1日~2013年3月31日(約7年半追跡)

食事摂取量の調査はベースラインとなった初回のみです。

ランセット(2017年8月29日)の結果のポイント

結果の要約

🔵 炭水化物の摂取量が60.8%以上の人は全死亡率が上昇した

🔵 脂質の摂取量が多いほど全死亡リスクが低くなった

🔵 特に飽和脂肪酸を多く摂る人ほど脳卒中の率が低くなった

ランセットの結果の分析 by Seigo

糖質制限について話題にしているサイトがありましたが、糖質が低い場合は統計学的な際は出ておらず、むしろ糖質の摂取量が多いほど(60.8%以上)ほど死亡リスクが上昇したという結果でした。

この論文の新しい事実は、脂質を多めに摂っている人が死亡リスクが増したのではなく、下がっていたところに新しい発見があったというところでしょう。

しかも飽和脂肪酸(牛肉や牛乳、卵黄に含まれる脂質)は脳卒中のリスクを下げるとありました。

ただしこのデータは先進国ではカナダしか調査されておらず(日本やアメリカ、ヨーロッパは入っていない)、開発途上国の充分に食糧が得られない地域も入っているので、牛肉や牛乳を食べられる人たちは恵まれた人たちかもしれず、高い医療に接する機会があったため長生きした可能性もあるかもしれません。

また恵まれない国では炭水化物(穀物)しか食べ物がないような貧困地域地域である可能性が高く、栄養のバランスが良くないため、または十分な医療が受けられないために短命に場合が考えられるかもしれません。

よって先進国をもっと多く含む調査が望まれ、生活レベルも別々に調べた場合にどの様な統計上の結果がでるか興味深いところです。

糖質がなぜ高くなるのか?

イメージ画像(出典:by マロネコ/写真AC)


そもそも現代人は、なぜ糖質を多く摂ってしまう傾向にあるのでしょうか? 簡単に紹介していきます。

糖質とはお菓子やケーキ等の甘い物に含まれる砂糖だと思っていませんか? もちろんお菓子にも糖質は含まれていますが、それだけではありません。普段食している「お米」「じゃがいも」等にも含まれています。いわゆる人間の3大栄養素の1つである「炭水化物」に糖質が含まれてると思っていいです。

 マメ知識  炭水化物から糖質の量の計算の仕方
糖質の量 = 炭水化物の量 — 食物繊維の量

この糖質は体内に入るとブドウ糖となり、全身にいきわたります。ブドウ糖はエネルギー源になりますので、体の機能を維持するのに必要不可欠なのですが、多く増えすぎとエネルギーとして消費されず、肝臓に蓄積され中性脂肪へと変化。中性脂肪が増えてくると肥満になり、脂肪肝糖尿病心筋梗塞、そして脳梗塞などの死に繋がる疾患になる可能性が高いのです。

このように糖質を過剰に摂ってしまう事で死亡率が高くなりますので、炭水化物も含めた糖質の摂取には気をつけなくてはいけないのです。

そして上記で説明したように「ランセット」のコホート研究でも炭水化物をたくさん摂っているような糖質の摂取の多い人たちが死亡リスクが高いという統計上の分析結果がでておりますので、糖質の摂りすぎに警鐘が鳴らされのです。

現代の食事で糖質はどこから来るか?(具体例)

イメージ画像(出典:by きぬさら/写真AC)


現代の食事では炭水化物や糖質を多く摂りすぎています。1日の糖質の摂取を見てみましょう。(ある人の1日の食事の例)

   パン1枚 目玉焼き、サラダ、コーヒー(甘め)
   ラーメン1杯 餃子半ライス
おやつ ポテトフライMサイズ ジュース
   ご飯大盛り1杯 肉じゃが サラダ ビール 350mL1本

こんな感じの食事だとします。一見普通の食事にも見えますし、サラダも食べているので適切なように見えますが、糖質(炭水化物)の量が多いです。朝だとパンや砂糖を入れたコーヒーで糖質を摂っていますし、昼はラーメン、餃子の皮、半ライス、おやつのポテト、ジュース、夕のご飯、肉じゃがのじゃがいも、ビールに糖質が含まれています。

1日の炭水化物摂取量が男女共に摂取するエネルギー量の50~65%と言われています。例えば1日2000kcal 摂取した場合、2000×0.5~0.65=1000~1300kcal。炭水化物1gが4kcal ですので1日250~325gの糖質が必要になります。先程の食事の合計糖質量は約342gとオーバーしています。意識して糖質を制限しないと摂取量を抑えるのが難しいのです。

過度な糖質制限の落とし穴

イメージ画像(出典:ダイエット・食事制限イメージ)


糖質制限をすればやせるといわれており、健康にもなるのだから頑張ってやってみようと考える方が多いと思います。最初は制限するのが難しく大変ですが、体調も良くなり、ダイエット効果もあるので、楽しくなるかもしれません。しかし、過度に制限をしてしまうと逆に危なくなる場合があるのです。

体や脳の活動にはある程度の糖分が必要なので、それが不足してしまうと「低血糖」に陥りやすいです。低血糖の症状は頭痛めまい手足のふるえ異常な発汗が見られるようになり、精神的にはイライラしたり、判断力が低下うつ状態となりえます。

私の友人も糖質制限を行い、なおかつ運動もしていたのでエネルギーの消費量は多いはずでしたが、糖質を制限しすぎたあまり、低血糖症状を起こし1度倒れてしまった事があります。
過度な糖質制限は控えた方がいいでしょう。

まとめ

糖質を過度に摂取すると(全食事の6割以上)死亡リスクが上がるという結果がランセットから出されましたが、糖質制限については特に警告は含まれていませんでした。

糖質の過多は容易に起こりがちで、パンやコーヒーなどでも簡単に上がってしまうので注意が必要です。

しかし糖質制限もやり過ぎると危険です。体や脳の基本的な活動に必要なため、体重を落とす目的の過度な糖質制限はやめましょう。

引用文献

ランセット(英文):Associations of fats and carbohydrate intake with cardiovascular disease and mortality in 18 countries from five continents (PURE): a prospective cohort study.
Lancet. 2017 Nov 4;390(10107):2050-2062. doi: 10.1016/S0140-6736(17)32252-3. Epub 2017 Aug 29.

日本語のレビュー:
炭水化物の摂取増加で死亡リスク上昇/Lancet(carenet.com)2017/9/8

「糖質制限」論争に幕?一流医学誌に衝撃論文(東洋経済 ONLINE)2017/10/3

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