約13%のがんはウイルスの感染によって引き起こされていることが判明!? (2020年最新論文)

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中国や日本では新型ウイルスによって肺炎や咳が問題となっていますが、今回はウイルスが細胞に感染して「がん化」することを詳細に調べたデータが発表されました。

英国イーストアングリア大学を中心とする国際チームが研究論文をNature Genetics 誌に投稿(オープンアクセス)、そしてまた大学のサイトでプレスリリースが発表されましたので、内容をまとめてご紹介します。(翻訳のプロではないので分かりづらかったらすみません。)

がん細胞内で見つかったウイルスDNAの最初の包括的な調査

イーストアングリア大学の研究者は、さまざまな種類のがん内で見つかったウイルスの最初の包括的な調査の実施を促進しました。

イーストアングリア大学を中心とする国際チームは38種類のがんで腫瘍サンプル2,658から見つかったウイルスDNAを調査しました。

彼らは、調査したサンプルの13%でウイルスの痕跡を発見し、ウイルスが発がん性変異を起こすメカニズムのいくつか特定しました。

UEAのNorwich Medical SchoolのDr. Daniel Brewerらは、次のように述べています。
「私たちは、感染症とがんとの強い関連性をすでに知っていました。 たとえば、消化管にヘリコバクターピロリが存在すると、 胃潰瘍 を引き起こす可能性があり、胃がんに関連しています。
「一方、HPVウイルスのいくつかのタイプは 子宮頸がん を引き起こす可能性があります。

「ヒトの組織で全ゲノム配列の解析が進みますと、病原体のDNA配列もわかるので、ウイルスの検出と定量化ができるようになります。これはウイルスとさまざまな種類のがんとの新しい関連を見つけるための素晴らしい機会を与えてくれました。」

「感染とがんの種類との新しいリンクを見つけることは、がんの世界的な影響を軽減できるHPVワクチンなどのワクチンを提供する可能性があるため、重要です。」

これまでの経緯

これまでに、ヘリコバクターピロリ、ある種のHPVウイルスB型肝炎C型肝炎エプスタインバールウイルスなど、11の病原体ががんの原因として特定されています。

世界中で、毎年合計64万件のがんがヒトパピローマウイルス(HPV)のみによって引き起こされており、子宮頸がんの大部分を予防するワクチンが期待されています。

調査方法

この研究はドイツのがん研究センター(DKFZ)が主導した全遺伝子解析(PCAWG)の一部です。どんな遺伝子変異やDNA変異のパターンがいろいろなタイプの腫瘍において影響するかを立証するために、1,300人以上の研究者のチームを組んだInternational Cancer Genome Consortium(ICGC)によって開始されたイニシアチブです。

このメタ分析のために、彼らは38種類の癌からの2,600以上の腫瘍ゲノムの配列データの包括的なバイオインフォマティクス分析を実施しました。

チームは356人のがん患者で23種類のウイルスの痕跡を発見しました(2656人中356人で13.4%、原著論文のデータより)。そして予想どおり、腫瘍の発生と成長の既知のウイルスドライバー(がん遺伝子の活性化に関与)が最も一般的でした。

今回発見された知見まとめ

🔵 さまざまな種類のがん(特に リンパ腫 胃がん 鼻咽頭がん )を引き起こすことが知られているエプスタイン-バーウイルス(EBV)は、調査したがん組織の5.5%で見つかりました。

🔵 B型肝炎ウイルス(HBV)のDNAは、 肝臓がん で最も多く、330例中62例(18.8%)で見つかりました。

🔵  子宮頸がん で20例中19例(95.0%)および  頭頸部腫瘍 で57例中18例(31.6%)にヒトパピローマウイルス(HPV16)を発見しました。

Brewer博士は「HPVは頭頸部がんに見られる重要な変化の一部と互いに独占的なであることがわかりました。 つまりHPVウイルスはゲノムに追加の変更を加えることなく、がんの発生を促すことができる」と述べました。

🔵 アデノウイルスやバキュロウイルスを含むいくつかのウイルスとがんとの関係を除外しました。

🔵 HBV、HPV16、HPV18、およびアデノ随伴ウイルス-2(AAV2)の場合、ウイルスの統合はゲノムコピー数の局所的変動と関連

🔵 TERTプロモーター部位でのウイルスDNAのまとまった挿入は、明らかにこの腫瘍駆動プロセスを活性化する高いテロメラーゼ発現と関連

🔵 高レベルの内因性レトロウイルス(ERV1)発現は、 腎臓がん 患者の生存率の悪化と関連

⭐️ ⭐️ ⭐️

Brewer博士は次のように述べています。「腫瘍内のウイルスの存在は、細胞内のDNA損傷修復メカニズムの欠陥ゲノムの変化パターン関連があることも分かってきました。これは、 子宮頸がん 膀胱がん 、および 頭頸部がん では、ウイルスを防御する機構が何らかの障害を受けてがん化していることが示唆されます。

ドイツ癌研究センター(DKFZ)のPeter Lichter 教授は、次のように述べています。「がんゲノム全体を分析すると、RNAの調査のみに基づく以前の研究よりもかなり多くの腫瘍でウイルスが発見されました。にもかかわらず、他の未知のウイルスががんに関連しているという痕跡は確認できませんでした。」

Bob Champion Cancer TrustのDavid Dearnaley 教授は次のように述べています。「これは癌のウイルス関連をカタログ化する国際的な協力企業です。「誤った発見」を避けるために着実な方法論を使いました。2600以上のがんのペアと正常細胞を比べました。大規模な全ゲノムシークエンシングと全トランスクリプトームシークエンスの結果より、約16%という高い割合でガンがウイルスに関与することが示されました(原著論文より)。

「子宮頸部、頭頸部、肝臓、胃がんなどのさまざまなウイルスとの既知の関連性が確認されていますが、脳腫瘍との推定上の関連性は否定されています。

「ヒトのガンにおけるウイルス関与の状況」は、2020年2月5日にジャーナルNature Geneticsに掲載されました。

引用ニュース & 原著論文

🔵 プレスリリース(英語):First comprehensive survey of virus DNA found within cancer cells.)FEBRUARY 5, 2020

🔵 原著論文 (オープンアクセス:全文が無料でご覧になれます):The landscape of viral associations in human cancers.(Nature Genetics , 2020 )
→ 最近はGoogle翻訳の性能が良くなってスムーズな日本語に翻訳してくれるようになってきました。(時々変ですが)ご活用下さい。(Google翻訳のページはこちら

Seigoの追記

大規模な全ゲノムシークエンシング(382サンプル)と全トランスクリプトームシークエンス(68サンプル)を解析した結果、がん組織には次の主に4つのウイルスが入り込んでいることが発見されました。

がん組織に見つかったウイルスとがんの種類
ヒトパピローマウイルス(HPV16, HPV18)➡️ 子宮頚がん 95%, 頭頸部腫瘍 32%
B型肝炎ウイルス(HBV)➡️ 肝臓がん 18.8%
エプスタイン・バール・ウイルス(EBV)➡️ リンパ腫 胃がん 鼻咽頭がん 5.5%

子宮頚がんでは95%もヒトパピローマウイルスが入り込んでいたということですから、ほとんどがウイルスが原因といえます。数年前に子宮頚がんワクチンが女子学生に接種されたのもこの理由でしょう。しかしヒトパピローマウイルスはもともと女性は持っておらず、感染させるのは男性からなので、もしかしたらオーストラリアで行ったように男性に子宮頚がんワクチンが必要なのかもしれませんね。

上記の結果でおかしいなと思ったのは、C型肝炎ウイルス(HBC)がほとんど認められないうことです。考えてみたら上記のすべてのウイルスはDNAウイルスで、C型肝炎ウイルスはRNAウイルスなので、もしかしたらRNAウイルスはワザワザDNAに逆転写してゲノムに入ることはあまりないのかもしれませんね。

現在問題となっている新型コロナもRNAウイルスです。RNAウイルスはゲノムに入って悪さをするというよりは、速やかに細胞の外へ出て、また他の細胞に感染したり、くしゃみと供に体の外へ飛んでいったりと動きが激しいのでしょうか?

DNAウイルスとRNAウイルスの違い

勝手に次のような性質を思いついてしまったのでまとめておきます。

DNAウイルス ➡️ 時間をかけて細胞に居座わって「がん」などを引き起こす ➡️ 遺伝情報が安定なのでワクチンを作りやすい
RNAウイルス ➡️ 自分を複製させて比較的速く細胞の外へ出て行く(インフルエンザエボラコロナウイルスなど発症が比較的早い) ➡️ 遺伝情報が不安定なのでワクチンを作りにくい

それにしてもウイルスはがんを起こしたり肺炎を起こしたりして、私たちの生存を脅かす目に見えない悪魔だということが分かってきました。

しかしこれまではその姿が見えませんでしたが、今その全貌がやっと科学的に分析できるようになってきました。今まで難しかったRNAウイルスに対しても撃退する薬が作れるようになってきました。科学的に性質が分かってしまえば、それに対処できますので、ウイルスを起因とする肺炎やがんを撲滅できる日は近づいているように思えます。

今回の新型コロナウイルスは日本への侵入を許してしまいましたが、すでにゲノム配列がわかり、SARSに近いウイルスであることが分かっているので、一刻も早く対処法が確立されるよう応援します。

 

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