CRISPR/Cas9の問題点の解決なるか!? 活性を制御する新しい抗CRISPRタンパク質の発見 (2019年論文)

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今回はDNAの編集ツールのCRISPR(クリスパー)の最新情報です。私は遺伝子編集をずっと研究していたので、このようなちょっとオタクな内容も取り上げます。

今回は土の中や人の腸から見つかった新しい抗CRISPRタンパク質についての報告です。こういうものを組み合わせることで遺伝子編集を間違いがより少なく正確にしてくれるかもしれません。

この研究はデンマーク工科大学(DTU)が最新研究をプレスリリース(英文)したもので、それを翻訳したものをご紹介させていただきます。

ニュースタイトル「土壌およびヒトの腸で発見された新しい抗CRISPRタンパク質

イメージ画像(出典:Photo by Kyle Ellefson on Unsplash)


デンマーク工科大学(DTU)のノボノルディスク生物多様性科学センターの科学者らは、異なる環境に分散している4つの新しい抗CRISPRタンパク質を発見しました。Cell Host&Microbe 誌に発表された新しい研究によると、複数の抗CRISPRタンパク質が以前に予想されていたよりも自然界の広範囲に存在しているということです。これらの抗CRISPRタンパク質は、将来的にCRISPR-Cas9システムの活性を改善するために使用される可能性があります。

CRISPRシステムは、細菌が感染ウイルス(ファージ)と闘うためにターゲットを絞った方法を利用した細菌性免疫システムです。

CRISPRシステム、特にCas9は、その適用可能な性質からライフサイエンス業界で現在広く普及しており、遺伝子治療新たな抗生物質作用、そしてマラリア治療に対しての突破口をひらく可能性があります。

興味深いことに、ウイルスと細菌との間の進化的な軍拡競争において、ファージは細菌性CRISPRシステムへの対抗策として抗CRISPRタンパク質進化させてきましたこれらのタンパク質は宿主細菌の防御システムを急速に阻害し、細菌を感染に対して攻撃されやすい状況にしています。

それらの生物学的重要性にもかかわらず、これまで、わずかな抗CRISPRタンパク質が細菌の非常に特異的な一群で見つかっていただけでした。現在の抗CRISPRタンパク質は本質的には豊富でなく、CRISPR-Cas9システムを保有する細菌に感染することができたファージのDNAを調べることで同定されてきました。この方法だと、① 細菌を培養することができること、および② ファージが細菌に感染でき、細菌の中のCRISPR-Cas9システムによる監視を回避できること、という二つの条件を満たしている必要があります。

「我々は、DNA配列の類似性よりもむしろ抗CRISPR機能活性に焦点を当てた別のアプローチを使用しました。その結果、培養やファージに感染することができない細菌からも抗CRISPRタンパク質を見つけることができました。大変素晴らしい結果です」と、DTUのポスドクRuben Vazquez Uribe氏は述べています。

糞便試料から見つかった抗CRISPRタンパク質

イメージ画像(出典:by sabazoo/イラストAC)


研究者らは、4つのヒト糞便試料、2つの土壌試料、1つのウシ糞便試料、1つのブタ糞便試料からの総DNAから、抗CRISPR遺伝子を同定しました。DNAを切り刻み、細菌内のプラスミド上にランダムに発現させました。この細菌は抗CRISPR機能活性の選抜が行える遺伝子回路を有するものです。つまり、抗CRISPR遺伝子の可能性のある配列を含むプラスミドを持った細菌は特定の抗生物質に抵抗性を示し、逆に、プラスミドに抗CRISPR機能がない場合は死んでしまう仕組みです。

このシステムにより、研究者は抗CRISPR活性を持つDNAを簡単に検出して選択し、その起源まで遡ることができます。このメタゲノムライブラリー法を使用して、Cas9活性を回避した11のDNA断片を同定することができました。

続いての解析で、4つの新しい抗CRISPRタンパク質の活性を確認することができました。系統解析により、糞便サンプルで同定された遺伝子は、複数の環境で見られる細菌、例えば、昆虫の腸、海水、食物、に生息する細菌に存在することが明らかになりました。

これは、新たに発見された遺伝子が生命の系統樹の中の多くの細菌の枝に広がっていること、場合によってはこれらの遺伝子のいくつかが進化の間に、何度も水平伝播を起こして広がっていったという証拠になります。

「我々が発見した抗CRISPRタンパク質が自然界に非常に多く存在しているという事実は、それらが大変有用であり、そして生物学的観点から大きな意義を持つことを示唆しています」と、DTUの科学ディレクター兼教授であるMorten Sommerは述べています。

これらの知見は、抗CRISPRタンパク質が、ファージと宿主との間の相互作用において、これまで考えられていたよりもはるかに大きな役割を果たしている可能性があることを示唆しています。

ゲノム編集に便利なスイッチ

イメージ画像(出典:Gerd AltmannによるPixabayからの画像)


この分野の初期の研究で、ゲノム編集の実験の際、抗CRISPRタンパク質が、標的外の部位でDNAを切断するなどのエラーを減らすために使用できることが実証されました。

「今日、CRISPR-Cas9を使用しているほとんどの研究者は、システムの調整と標的外活性の制御が難しいと感じています。ですから、活性をテストするときシステムをオン・オフできるようにしたいため、抗CRISPRタンパク質システムはとても重要になります。したがって、これらの新しいタンパク質は非常に有用になる可能性があります」とMorten Sommerは話しています。

研究者らは実際に、4つの新しい抗CRISPRタンパク質が異なる性質と特徴を持つらしいことを発見しました。 今後の研究によって、ますますその重要性が明らかとなるでしょう。

引用ニュース & 原著論文

🔵 英語ニュース:New anti-CRISPR proteins discovered in soil and human gut( Technical University of Denmark

🔵 原著論文:Discovery and Characterization of Cas9 Inhibitors Disseminated across Seven Bacterial Phyla (Cell Host & Microbe (2019))

 ゲノム編集(CRISPR)関連の書籍

Seigoの追記

CRISPRは細菌を、例えばファージなどから自分のDNAを守るために働く免疫システム(この場合はCRISPR-Cas9でファージのDNAを切断する)でしたが、今回は逆の発想で「ファージ」が細菌へ侵入する際に自分のDNAが切られないようにCRISPRを不活性化させる分子(抗CRISPRタンパク質)を探し出すために、研究者がヒト糞便や土壌からDNAを片っ端に調べて4つの新しい抗CRISPRタンパク質が見つかりました。

もともとCRISPR-Cas9システムは遺伝子を不活性化したりする編集作業ができるので、今やバイオテクノロジー業界でたくさん使われています。しかしいつも100%正確に動いてくれるわけではなく、時には望んでいないDNAの箇所で切ったり遺伝子を壊したりするので、そのゲノム編集の正確さが求められています。

今回の抗CRISPRタンパク質はCRISPRを抑制するので、さらに正確にゲノムを編集できるようになるかどうか、今後の研究の進展を見守りたいです。

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