炎症を増し老化を加速する利己的な遺伝的要素:LINE1 トランスポゾン(米国最新研究)
健康情報
今回は利己的な遺伝的要素が炎症や加齢に伴う病気を増幅するという報告です。
米国ロチェスター大学が最新研究をプレスリリース(英文)しましたので、その和訳をご紹介します。
ニュースタイトル「利己的な遺伝的要素が炎症や加齢に伴う病気を増幅する」
老化はあらゆる生物に影響を及ぼしますが、老化の原因になる分子のプロセスは依然として議論の的となっています。老化プロセスには多くの原因がありますが、動物の老化における共通のテーマの1つは炎症です – そしてこれはある種の利己的な遺伝的要素によって増幅されるかもしれません。ヒトのゲノムには利己的な遺伝的要素、すなわち宿主にとって有益ではないと思われる反復的な要素が散りばめられていますが、代わりに宿主ゲノムに新しいコピーを挿入することによって自らを繁殖させることだけを求めています。「LINE1 レトロトランスポゾン」と呼ばれる利己的遺伝要素は、ヒトに見られる最も一般的なものです。ヒトとマウスの両方のゲノムの約20パーセントがLINE1で構成されています。
研究者たちは長い間、LINE1が癌やゲノムの不安定性に寄与していると疑っていました。しかし、これらのゲノム寄生による被害は、研究者が当初考えていた以上にはるかに大きいものです。 Cell Metabolism 誌の論文の中で、ロチェスター大学の研究者と、Vra Gorbunova、Doris Johns Cherryの生物学教授、およびAndrei Seluanov生物学教授は「LINE1 レトロトランスポゾン」は年齢とともに活性化し、炎症を誘起することによって加齢関連疾患を引き起こす可能性があることを示しています。レトロトランスポゾンの影響を理解することによって、研究者は細胞が老化するプロセスと、老化の有害な影響に対して戦う方法をよりよく認識することができます。
ヒト細胞はLINE1のような利己的な遺伝的要素を排除するために、遺伝子サイレンシングなどの複数の分子メカニズムを進化させてきました。ただし、これらのメカニズムは老化のプロセス中に効率が悪くなり、LINE1要素は再び活性化されてしまいます。
LINE1が活性化するにつれて、それらのコピーの一部は細胞核から外側の細胞質に漏れる、とGorbunova氏は述べます。「細胞質内のDNAはすべて、細胞に侵入してくるウイルスに似ているため、警告のシグナルを発します。」 細胞質の「保護者」— DNAセンサーの各種 — は通常侵入物を認識し、炎症のような免疫反応を引き起こします。このプロセスは、通常ウイルスや外来DNAからヒトを保護するように機能しますが、古い細胞内の漏れたLINE1のコピーを認識し、加齢による炎症の形で「誤警報」を引き起こします。
研究者らは、LINE1 DNAの形成を触媒する酵素である逆転写酵素を阻害する薬物を使用してLINE 1を減少させることができることを発見しました。これらの薬はもともとHIV患者の逆転写酵素を攻撃するために開発されました。 LINE1を減らすためにこれらの薬を使うことは、寿命を改善することに加えて、マウスの健康を改善し、そして炎症を減らす、とSeluanov氏は言います。 「LINE1要素によって引き起こされる無菌性の炎症は、老化の新しいメカニズムです。私たちは今LINE1と炎症を引き起こす経路を標的とする戦略を開発できるようになりました。」
LINE1とその炎症への影響についてのこれらの新しい洞察を基に、研究者らはLINE1を抑制することを目的とした介入治療を開発することを望んでいます、とGorbunova氏は言います。 「これらの介入治療は神経変性やがん、糖尿病、自己免疫疾患など、炎症を原因とする加齢関連疾患に対する新しい治療法として役立つ可能性があります。」
引用ニュース & 原著論文
🔵 英語ニュース:Selfish genetic elements amplify inflammation and age-related diseases( University of Rochester )🔵 原著論文:LINE1 Derepression in Aged Wild-Type and SIRT6-Deficient Mice Drives Inflammation( Cell Metabolism (2019))
20余年アメリカで遺伝子治療&幹細胞の研究者をやってきました。
特に遺伝病の間違った遺伝子をピンポイントで修復し、元に戻す技術開発です。
理学博士(Ph.D. )
アメリカ生活で学んだアンチエイジングなど健康に関する知識をシェアしたいと思います。
巷の情報もご紹介、時にはブッた斬ったりしてしまうかもしれません。
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